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大谷翔平が見逃さなかったマウンドの「異変」 神は細部に宿る

スポーツライター 丹羽政善

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5日にヒューストンで行われたアストロズ戦に先発登板した大谷翔平。初回のマウンドに上がると、ドジャースの実況が面白いエピソードを披露し始めた。かいつまんで紹介すると――。

前日の試合後、グラウンドでチームメートと勝利のタッチを交わしてからマウンドに向かった大谷は、感覚を確かめるようにシャドーピッチングを行った。その際、マウンドの形状が何か違うことに気づいた。プレートの左右と後ろに十分な平らなスペースがなく、すぐに傾斜が始まっていたのだという。

昨年からノーワインドアップで投げている大谷は、左足を左斜め後ろに引くことで投球動作を開始する。シャドーピッチングの目的そのものは、マウンドからの景色を確認するためだったが、左足を引いたときに違和感を覚えた。すぐにチームに伝え、ドジャースも翌日アストロズに修正を依頼したが、間に合わなかったようだ。

ルールブックによれば、プレートの後ろは22インチ(55.88センチ)、プレートの左右は18インチの平らが必要となっている。アストロズの本拠地ダイキン・パークが違反しているかどうかは厳密に測定したわけではないので不明だが、大リーグ機構(MLB)は開幕前とポストシーズンの前に検査するものの、シーズン中に確認することはまれなので、変更されていても分からない――。実況の話はそんな内容だった。

これを聞いて真っ先に頭に浮かんだのは、大谷の先発を見据えて細工をしたのか、ということだ。  

最近はあまり聞かないが、かつては自軍の先発投手の好みに合わせてマウンドを固くしたり、柔らかくしたりということが頻繁に行われていた。相手チームにとって不利になるような形状変更も意味としては変わらないだろう。

その日のテレビ解説を務めたドジャース往年の名投手、オーレル・ハーシュハイザーさんは「バランスが変わるので、適応に苦労しなければいいが」と懸念していたが、この日の大谷は7回2失点にまとめた。前日に気付いたことで、異形のマウンドにも対処できたのかもしれない。

ちなみに、その試合では2本のソロ本塁打を打たれた。いずれもフォーシーム(直球)だったが、今季はフォーシームが質、コマンド(狙った箇所に意図通りに投げることができているかを示す指標)ともに安定し、走者の状況、カウントなどから、その球種がいかに失点を防いだかを示す「Run Value」は+7でリーグ4位となっている。また、打球初速、打球角度、三振、四球などから、その球そのものの質を判断するxwOBAは.238でリーグ2位だ(いずれも7日現在)。

大谷のフォーシームは回転数が高いものの、回転効率が低く、ホップする(浮き上がる)ような球ではない。それは通常、「質が低い」と評価されがちだが、だからこそアドバンテージになっている可能性もある。

回転効率が低ければ、平均的なフォーシームの軌道とは異なり、カット気味に動く。加えて、回転効率が低いということはジャイロ成分が多いということ。バックスピンよりも空気抵抗が少ないので初速と終速の差が小さくなる。

東京科学大の青木尊之特任教授によると、球速160キロ、回転数2000(1分あたり)で計算した場合、回転効率が100%と70%のフォーシームでは、終速が2.26キロ異なるとのことだった。

・回転効率 70%/初速160 km/h  → 終速 149.64 km/h (10.36 km/h の減速)
・回転効率 100% /初速160 km/h  → 終速 147.38 km/h (12.62 km/h の減速)

大谷の今季の平均回転効率は74.6%。回転数は2485回転。シミュレーション結果とは回転数と回転効率が異なるので、必ずしも上記の差になるわけではないが、その差を打者はどう感じるのか。冒頭で紹介したアストロズ戦では、70%を切る回転効率のフォーシームもあった。メジャー平均が約90%であることを考えると、もはや意図的とさえ思えてくる。

大谷は打席でも小さな工夫を重ねてきた。バットの重さ、長さなどを毎年変えているが、実は打席での立ち位置も微妙に異なる。

昨年から打席に入るときにバットでホームベースとの距離を測って、左足の位置を決めている。しかし、今年はデータを確認する限り、ややキャッチャー寄りに立っている。昨年、両腰の中間点からホームベースの一番投手寄りの辺までの平均距離は29インチ(73.7センチ)だった。今年はここまで30.6インチ。しかし、4月25日から5月4日までは31.6インチ。昨年との差は2.6インチだ。

より長くボールを見るためなのか。理由は本人に聞かなければ分からないが、かつて、イチローさんも立ち位置を捕手寄りに変えたことがあった。2012年の開幕当初の話だ。後年、その理由をたずねると教えてくれた。

「あれは審判のことを考えて。あまりにも通常ならボールとなる球がストライクになるケースが多いから、僕が立っている場所が悪いんじゃないかと。その変化を見るために下がってみた」

低めにストライクゾーンが広がった、と言われていた頃の話だ。イチローさんは具体的にどのゾーンを指すのかまでは口にしなかったが、特に変化はなく「だから戻した」と振り返っている。

今年からロボット審判の導入で、これまではホームプレートの一番投手寄りのラインを通過した時点でストライク、ボールが判定されていたが、それがホームプレートの中間地点に変わった。その差は8.5インチ。大谷が捕手寄りに立ち位置を変えたのは、その対応とも考えられるが、果たしてどうか。

100マイルの豪速球。140メートルを超える本塁打。見出しになるような派手な数字の裏で行われている数センチ単位の駆け引き。トップになればなるほど、そのわずかな差が逆に決定的なものとなりうる。やはり、神は細部に宿るのだ。

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拝啓 ベーブ・ルース様
米大リーグ・ドジャースで活躍する大谷翔平をテーマに、スポーツライターの丹羽政善さんが彼の挑戦やその意味を伝えるコラムです。

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