AIによる工数削減を計測して見えた結果と考察

AIによる工数削減を計測して見えた結果と考察

はじめに

こんにちは、データシステム部MA推薦ブロックの佐藤(@rayuron)です。私たちは、主にZOZOTOWNのメール配信のパーソナライズなど、マーケティングオートメーションに関するレコメンドシステムを開発・運用しています。

以前、テックブログで工数やAI活用による工数削減を計測する仕組みを、タスク管理ツールのGitHub Projectsで構築する方法をご紹介しました。前回の記事が計測の仕組みの作り方を扱ったのに対し、本記事では仕組みを1年間運用して得られた結果とその考察、そして今後の展望をご紹介します。

目次

背景と課題

昨今のAIの進化は目覚ましく、私たちの業務でもAIを活用する機会が増えています。AIを使うことで、業務の工数削減や品質向上など、多くのメリットを享受できます。特に工数削減については、「タスクを捌く時間がなんとなく短くなった」という体感がありました。一方で、実際どれだけ効果があったのかは把握できていませんでした。そこで、私たちはAI活用の効果のうち工数削減を計測することにしました。

AIによる工数削減を測るには、AIを使った時と使わなかった時の工数を比較する必要があります。しかし、現実にはある1つのタスクに対してAIを使う場合と使わない場合を同時に観測できません。AIの利用回数やPull Request(以下PR)のマージ数などの指標は取得できるものの、これらは活動量を示すものであり、工数削減に「どれだけ効果があったか」を直接測るものではありません。また、MLチームの業務にはモデル開発の実験・ドキュメント作成・プロジェクトマネジメント業務・登壇準備など、PRにならない業務が多く、PRベースの計測ツールでは網羅的に計測できませんでした。

同じタスクでAIを使う場合と使わない場合の両方は観測できない

AIの効果が測れないままでは、投資対効果を説明できませんし、どのパターンの業務がAIと相性が良いのかも感覚的にしか分からず、改善の方向性も定まりません。そこで私たちは、効果を測る仕組みを作り、得られたフィードバックをもとにAI活用の改善を進めることにしました。

計測の仕組みと運用

まず取り組みを見ていただく前に、私たちの通常業務を紹介します。後述する結果はチームのタスクの内容に大きく依存するため、先に知っていただくと結果を解釈しやすくなると思います。

私たちMA推薦ブロックは、エンジニア3人の小規模チームです。メール・LINE・Pushなどの配信をパーソナライズするレコメンドシステムを開発・運用しており、業務例は以下の通りです。

  • 施策起案/要件定義:施策インパクトの事前分析・要件定義
  • システム/モデル設計:推薦モデル・システムの設計
  • システム/モデル実装:推薦モデル・システムの実装、テスト、デプロイ
  • 効果検証:A/Bテストダッシュボード作成、効果検証レポーティング作成
  • 運用保守:オンコール対応、パッケージ更新、問い合わせ対応
  • その他:プロジェクトマネジメント、チームの仕組み作り、目標設定、勉強会、登壇など

開発にはGitHubを使用しており、ドキュメント管理にはConfluenceを使っています。AIツールとしては、Claude CodeCodexDevinなどを必要に応じて使い分けており、メインではClaude Codeを使っているメンバーが多いです。

計測の仕組み

背景と課題で述べたとおり、同一タスクにおいてAIを使った場合と使わなかった場合を同時に観測できません。そこで、タスクの担当者にAIを使わなかった場合の想定工数を見積もってもらい、実際にかかった工数との差を「AIによる削減工数」として記録することにしました。

具体的には以下の仕組みを作成し運用しています。

  1. 全タスクをGitHub Issueで管理しGitHub Projectsに紐付け、カスタムフィールド「AI削減工数」「AI活用の成功・失敗事例」に記録する
  2. GitHub ProjectsのデータをBigQueryへ毎日自動エクスポートし、ダッシュボード上で可視化する

全体像は以下の通りです。記録したデータは日次でBigQueryへエクスポートされ、BIツールのData Studio(旧Looker Studio)のダッシュボードから確認できます。

GitHub ProjectsからData Studioまでの計測基盤の構成

この計測方法について、詳細は以下のテックブログで紹介しています。

techblog.zozo.com

Issue作成とフィールド入力には、Claude CodeのSkillをそれぞれ用意して、運用負荷を下げています。例えば、Issueを標準テンプレートで作成する /create-issue や、AIとのセッションログを解析してAI活用フィールドを自動入力する /fill-ai-usage です。なお、入力内容そのものをAIに判断させるわけではありません。あくまで担当者の判断を補助するために使います。例えば、以下のようなタスクで工数削減があった場合、担当者は次のように記録します。

  • Issueタイトル:MLパイプラインの実装
  • AI削減工数:2時間
  • AI活用の成功・失敗事例:パイプラインのステータスをポーリングするスクリプトを書いて、エラー時にClaude Codeで自動修正させて再実行させるループを作った

AI活用の成功・失敗事例の欄には、Issueのタスクそのものではなく、タスクを進める中でAIをどう活用したかを記録します。こうした記述が、工数削減にどうAIが効いたかを後から振り返るナレッジになります。

運用の整備

計測の仕組みを作っただけでは、チーム全員が使いこなせるようにならず、改善のサイクルも回りません。そこで、以下の運用を整備しました。

  • チーム目標への組み込み:「AIで社員を0.5人増やす」を半期のチーム目標に設定した。削減した時間を1か月あたりの営業日数×8時間と比較することで、チーム全体で「1か月あたり0.5人増えた」と言える状態を目指した
  • 週次振り返り: 毎週ダッシュボードで削減実績を確認し、ナレッジを共有する。削減工数が最も多かったメンバーに社内のピアボーナスを送った
  • AI活用会: AI活用において、活用方法を知っているかどうかの差が大きいため、全員がAIの機能や使い方を「知っている」レベルに揃えることを目的に、毎週1時間開催してきた。その後はチーム外のメンバーにも拡大した。現在は、社内のAI活用レベル指標AZARSに基づき、既存業務のうちAI活用の効果が大きいものを特定し、改善を進めている
  • デモ会: AI活用で削減できた時間を使い、施策提案のためのプロトタイプ作りと他チームへの提案をしている

以下は、週次振り返りで使っていたダッシュボードの一例です。

MA推薦ブロックの週次振り返りダッシュボード

結果と考察

このような取り組みの結果、以下のような変化がありました。

AIによる工数削減とAI活用率の推移

FY2025H1とFY2025H2を比較すると、AIによる工数削減とAI活用率の計測結果は以下の通りです。

期間 AIによる工数削減 完了件数 平均AI活用率
FY2025H1(2025/04〜09) 212.6時間 269件 45.0%
FY2025H2(2025/10〜2026/03) 439.9時間 260件 71.5%
合計 652.5時間 529件 --

※ AI活用率は「AI削減工数が記録されたIssue件数 ÷ 完了したIssue全件数」で算出しています。

月別に見ると、削減工数は2025年10月の90.2時間と2026年3月の96.8時間がピークでした。1人月を各月の営業日数×8時間とすると、2025年10月は約0.51人月、2026年3月は約0.58人月に相当します。半期のチーム目標に掲げた月0.5人分は、この2つのピーク月で達成できました。Issue単位のAI活用率は2025年6月の28.0%から、2026年3月には88.6%まで上がりました。また、削減工数の伸びはFY2026に入っても続いています。2026年7月時点の集計では、2026年4〜6月の3か月だけで253.6時間を削減しており、6月単月の114.5時間は計測を開始してから最も大きい月間削減です。

月別のAI削減工数とAI活用率の推移

H1からH2で削減工数は全体で見ると212.6時間から439.9時間へ、約2.1倍に伸びました。AI活用件数は121件から186件へ1.54倍、活用1件あたりの平均削減は1.76時間から2.37時間へ1.35倍です。つまり、AIを適用するタスクが増える「広がり」と、1件のタスクの中でAIに任せる工程が増える「深まり」の両方が寄与したと考えています。

ただし、この伸びは12か月の時系列を見た変化であり、活用率の上昇が削減を生んだという因果を示すものではありません。MA推薦ブロックは2025年2月に立ち上がったチームで、FY2025H1はチームの仕組み作りや環境の整備といった、AIの効きにくいタスクの比率が高い時期でした。さらに、この1年で利用しているAIの性能自体も大きく向上しています。チームの工夫と、タスクの変化、AIの性能向上が重なった結果として解釈していただきたいです。

作業内容別の効率

以下のグラフに示す作業内容別では、システム開発の削減工数が42.5時間から103.0時間へ伸びました。伸び率ではテスト・QAが4.2時間から47.0時間へ約11倍、テックブログ執筆・登壇が4.0時間から53.3時間へ約13倍となりました。

作業内容別のAI削減工数(H1/H2比較)

総量だけでなく効率も以下のグラフで確認します。1営業日あたりの削減工数は、AI削減工数の合計を実作業日数の合計で割った値です。作業内容ごとに見ると、上位はテックブログ執筆・登壇の0.53時間/営業日、分析・レポーティング作成の0.49、社内活動の0.42でした。下位はプロジェクトマネジメントと要件定義がともに0.14、設計が0.19でした。

作業内容別の1営業日あたりAI削減工数

※ なお、この指標は小さいIssueほど高く出やすいですが、作業内容ごとのIssueの粒度に大きな差はないことを確認しています。

この傾向から、成果物が明確で作業に時間のかかるタスクほどAIの効果は出やすく、意思決定や対人調整を中心とするタスクほど効果は出にくいと考えています。

効果が出やすいタスクの中でも、コード生成やドラフト作成は特に速さを実感しやすい作業です。実際にAIによる開発量が増えていることは、外部ツールでも確認できています。開発生産性の計測サービスであるFindy Team+のデータを見ると、AI活用が広がったH2に、PR作成数はH1の約1.5倍、デプロイ頻度も1営業日あたり1.3件から2.1件へ増えました。

定性的な変化

数字には表れない、以下のような変化もありました。

  • チームのナレッジが蓄積された:AI活用の記録やデモ会での議論を通じて、タスクごとのAIの利用例を後から参照できるようになり、ナレッジの共有が進んだ
  • メンバーのAIの活用レベルが上がった:AI活用の成功・失敗を経て、AIのより効率的な使い方を学び、実践できるようになった
  • チーム横断の交流が生まれた:勉強会をチーム外へ広げた結果、他部署との交流が増え、AI活用のナレッジが社内に広がった
  • プロトタイプ駆動の業務の進め方が生まれた:AIはアイデアをすぐ形にできるので、自分たちやステークホルダーからのフィードバックをすぐ得られる。この相性の良さを活かしたデモ会からは、デモを起点に案件化を判断する実例も生まれた

また、失敗の記録からも学びがありました。1つ目は2.0時間、2つ目は1.0時間の工数増として記録されたものです。

Claude Codeに方針を委ねようとして、結局出力がよくわからなくなり最終的に自分が方針決めをした。

GitHub Projectsのフィールド埋めをコマンド経由で自動化しようとしたところ手動でやった方が良いことに気づいた。設計時間分のロスが発生した。

当たり前と言われれば当たり前ですが、これらは方針決めのような曖昧なタスクをAIに委ねると逆に時間を失うこと、自動化にも判断が必要なことを示しています。こうした失敗事例も、チーム内で共有することで、次のタスクで同じ失敗を繰り返さないようにしました。

体感と実測のギャップ

メンバーからは、半期振り返りで以下のような声が上がりました。

AIで社員を0.5人増やすことが目標であったが、分析やコーディング業務では既に「俺が3人分になる…」ケースがある

一方、計測した工数削減を見ると、ピーク月でも96.8時間で約0.58人月の削減にとどまっています。エンジニア3人のチームにおける0.58人月の削減を、3人で3.58人分の業務をこなしたとみなすと、1人あたりは約1.2倍となり、体感の3人分とはギャップがあります。

このギャップについては、以下のように解釈しています。

  • 実装をAIが一瞬で終わらせる体験は脳に強く残り、その印象に引っ張られ、業務全体が速くなったように感じる
  • タスクが半日で終わってもその分2倍働くのは難しく、空いた時間は別のタスクに使われる
  • 「理解してから実装する」が「実装されたものを理解する」に逆転し、実装時のフロー状態に入れない
  • 並列でタスクを回せる分、コンテキストスイッチの回数と時間あたりのインプット量が増え、脳が疲れて作業の速度が落ちる
  • 人間のレビューの待ち時間や対人コミュニケーションのコストが変わらない場合、AIで作業を速くこなせるほど人間の対応頻度が増えるので人間がボトルネックになる

今後の展望

FY2026H1の目標は、AIによる工数削減を月1人分に引き上げることです。これまでのように各自のタスクにAIを使って速く終わらせるだけでは、この目標に届かないというのがチームの共通認識です。特に、考察で見えたのは私たちのチームの伸びを止めているのがAIの性能というよりは、人間や運用体制だということでした。人間の集中力や、コンテキストスイッチへの耐性は簡単には変えられません。変えられるのは人間によるAIの効果的な使い方や運用体制だと考え、具体的には以下のように改善を進めています。

Spec: 仕様の明文化

1つ目は、実行前に仕様と完了条件を明文化して、AIの成果物への理解度を上げることです。結果と考察で触れた失敗事例が示すとおり、仕様と完了条件が固まっていないタスクをAIへ投げると、出力の良し悪しを判断できず、かえって時間がかかります。仕様の明文化に加えて、仕様の検討時に過去の類似タスクを参考として提案する仕組みも作り始めています。

Eval: 成果物の品質の評価

2つ目は、成果物の品質評価を自動化しやすい形に整備することです。品質のうち定量化できるものはテストとして実装し、自動的に評価します。一方、定量化が難しいものについては判断基準をガイドラインとして整備し、それに沿って評価できるようにします。これにより、成果物の生成だけでなく評価においても人間の介入を減らせると考えています。

このような動きをレビューの自動化にもつなげるつもりです。レビューの目的は、規範適合・検証の代行・意思決定と合意形成・知識の伝達などと整理できます。規範適合や検証の代行といったタスクはAIと自動的なテストに任せ、人間は意思決定と合意形成を中心に行うことでAIと人間の役割を分担します。

以下の図の左側が現在の状態です。デプロイの前に第三者によるレビューを必須としているため、AIで1人の実装が速くなっても、チーム全体のスピードは上がりにくい構造です。右側のように自動テストとAIレビューを挟むことで、この構造を変えていきます。

チームでのレビューから、自動テストとAIレビューを挟んで個人で完結する形へ移す構想

成果物の定量化と自動的なテストが進むほど、人間からAIへ委譲できるタスクは増えると考えています。そして、人間の確認を要するタスクが減れば、レビュー待ちは少なくなり、各自は自走して高速にタスクを進められると考えています。

AIが自律的に動く状態の構築

3つ目は、人が毎回指示しなくてもAIが自律的に動き、使うほど賢くなっていく状態を作ることです。SpecとEvalが整備されたあとは、人間のトリガーを待たずにAIが安全に動き、人間の判断やAIの成功・失敗のフィードバックを適用しながら自ら改善していく状態を目指しています。

私たちのチームでは、自律的なAIが活躍でき、効果の大きそうな以下の領域から着手し、次のような状態を作ろうとしています。

  • アラート対応:アラートを検知するとIssueを自動作成し、AIエージェントが原因調査から修正対応までを行い、アラートを解決する
  • 定型的な改修:トリガーとなるイベントを受けて、仕様が明確な定型的な改修をAIが行い、リリース前の状態を作る
  • データ分析:人間とAIが仮説を作り、データの前処理・分析・可視化までを行い、結果をレポートとしてまとめる
  • モデル開発:人間とAIが実験計画を作り、分析→実装→実験を繰り返し、モデルの精度を改善して、結果をレポートとしてまとめる

ソウゾウのナナメウエの創出

最後は、AIで生まれた余白の一部を、意図的に新しい価値づくりへ投資することです。考察で見たとおり、削減した時間をすべて次のタスクの前倒しに使うと脳が疲れるだけになりかねません。実際に、デモ会ではビジネスサイドへの提案を文書から動くデモへ変える取り組みを続けています。こういった活動を広げることで、ZOZOが企業理念でZOZOらしさとして掲げるソウゾウのナナメウエなアイデアの実現に挑戦し続けられるチームでありたいと考えています。

おわりに

本記事では、AIによる工数削減を計測して見えた結果と考察、今後の展望をご紹介しました。

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corp.zozo.com

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