今回、武道館公演を目前に控えた八十八ヶ所巡礼・マーガレット廣井(Vo・B)に話を聞くことができた。2026年のシーンにおいて唯一無二の存在感を放つ八十八ヶ所巡礼の音楽はどのように生まれ、いかに磨き抜かれてきたのか? そして、記念すべき大舞台を目前に控えた今、改めて思うこととは? 八十八ヶ所巡礼の20年史と「これから」を廣井と一緒にひもといてみた。インタビュー=高橋智樹
──この取材日が7月10日で。武道館公演まで1ヶ月強、セットリストはもう考えてあります?それはもう終了していて。結構早い段階で──こんなに早くセトリが決まってることはあんまりないですね。一昨年の野音の時ですら、1ヶ月以内のところで決めてたので。余裕……があっていいのかどうかはわからないですけど(笑)、よくないプレッシャーとかはないですね。──「武道館で単独でやりたい」っていうのは、もともと思っていたんですか?いやあ……なんなら一昨年の野音をやった時、「これが最大キャパかな」と。このぐらいが気持ちよくできるかな、っていうふうに思ってたんですけど。そのあと、ライブのMCとかでも「武道館とか、僕らはできないよね」って言ったことあるんですよね(笑)。「僕らは似合わないよ、武道館は武道をする場所だから」って。でも、よくよく考えたら、ロックの聖地でもあるっていうことで……20年前の結成当初の僕らなんて、武道館なんてほんと、まったく視野にないはずなので。アンダーグラウンドで、ライブハウスでやれればいいと思ってたし。「渋谷の街で流行るような音楽を作りたくない」と思ってたし──今でも別に流行ってはいないですけど(笑)。──センター街で鳴り響くような音楽にはなりたくない、と。そうですね。上京して初めて来た街って、ほぼ渋谷とか青山ら辺なんですよ。音楽の専門学校に通ってたので、渋谷を通って帰る感じだったというか。でもやっぱり、渋谷の音楽に馴染めなくて……『渋谷で鳴らない音楽』を作ろうとずっと考えてたと思うんですよ。ひねくれ者で。──アンチ渋谷系ですね。(笑)そうですね。──20年前、「こういう存在になりたい」みたいなビジョンってありました?ない……かもしれないですね。ベーシストにはなりたかったですけどね。スタジオミュージシャンというか、音楽をして、ベースだけ弾いてれば生活できるような人になりたかったですけど。上京する時にも、親を説得しないといけないじゃないですか。「スタジオミュージシャンという、ベースを弾く職人的な仕事があって」みたいな。それだったら固い仕事じゃないか、っていう感じで説得したと思うんですけど。それで、1年制の音楽の専門学校に行かせてもらったんですけど……入学して3ヶ月ぐらいで、「スタジオミュージシャンは無理だ」と思ってやめたんです(笑)。──何がダメだったんですか?なんか、途方もない職業なんだなと思って。上が詰まってるというか──引退とかって、あんまりないじゃないですか。スポーツ選手みたいに、40代で引退とかもなくて。「これ、40歳ぐらいまでずっとアルバイトしなきゃいけないな」って思っちゃって。じゃあ方向転換しよう、と思って始めたのがこのバンドなんですけどね。20年前の結成当初の僕らなんて、武道館なんてまったく視野にないはずなので。「渋谷の街で流行るような音楽を作りたくない」と思ってたし
めちゃくちゃにかっこいいものって、世の中に出尽くしてしまってるから。その包囲網をかいくぐっていくしかないんですよね
──でも、「アンチ渋谷系」と「スタジオミュージシャン志望の挫折」だけでは、八十八ヶ所巡礼みたいな、3人が音で斬り合ってるみたいな音楽は生まれないと思うんですよね。詰め込みまくってますからね。──詰め込んでるし、惰性を許さないアンサンブルですよね。普通なら、歌のパートはコード一発で済ませるようなところも、フレーズが動きまくっているという。メンバーがパートチェンジしてもできるような、難易度の低い曲がないんですよね。やっぱり、お互いにリスペクトし合うために、『絶対にこれはできないね』っていうパートにはしたいね、とは昔から思ってたんですよね。それが、せめてもの──親への報いというか(笑)。──唯一無二のものにはなりたかったんでしょうね。ああ、そうでしょうね。替えの利かないものにはなりたかったんだなと思います。じゃないと、突破口がないなと思ったんです。このバンドをやり始めてからボーカルをとり始めたので、歌には特に自信がなくて。だから、初期の曲であればあるほど、間奏とかイントロとかが長いですね。ほとんどAメロ・サビしかないような歌ばっかりだったので。今もそうですけど(笑)。Aメロ・Bメロ・サビみたいな曲、あんまりないんですよね……まだ反発してるんでしょうね、J-POPに(笑)。──(笑)J-POPへの反発というか、フォーマットありきの作り方をしてない感じはありますよね。これを弾いたらザ・ロック!みたいなフレーズって、そもそも弾かないじゃないですか。そうですね。そういう、めちゃくちゃにかっこいいものって、世の中に出尽くしてしまってるから。その隙間を縫って、包囲網をかいくぐっていくしかないんですよね(笑)。だから、突拍子もないセッションを──よくスタジオで3人でセッションしてるんですけど、それをとりあえず録音しておいて。その突拍子もないところから出していくと、ラクでいいですね。「作ろう」と思って作ってないから、もうフォーマットがなくて。それを混ぜこぜにしていくと──まあ、まとめるのだけは20年でうまくなった気がするんで。そのまとめ方で、ちゃんと音楽になるんだなって、去年作ったアルバム(9thアルバム『八+九』)の時に思いましたね。「まとめるのが早くなってる!」って(笑)。──でも、その「まとめ方」だけでも、このクオリティにはならないと思うし。音楽自体が唯一無二のものとして成立してないと、武道館には辿り着けなかったと思うんですよ。ありがたい話です。