
月商1800万円を誇るキッチンカー・むら川に、「売れるキッチンカー」をつくるための極意を学びます。
コロナ禍を機に一気に広まったキッチンカー。
「丼もの」にメニューが集中して差別化が難しくなる中、品数が多く仕込みも大変な「海苔弁」を主力に据え、売り上げを伸ばしてきたのが「むら川」です。
7台のキッチンカーを都内各地に出店し、月商は1800万円。日本一のキッチンカーを決める「SHOP STOP Awards 2025」では、3300台中1位を獲得し、「日本一売るキッチンカー」と称されることも。
そんなむら川の代表を務める玉川大朝(ひろあさ)さんに、キッチンカー業態で成功するための視点とノウハウを伺いました。

- 玉川大朝さん
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株式会社Mobifac代表取締役。「むら川」をはじめとするキッチンカーの運営を通じて、自社コンテンツの開発と現場知見の蓄積を行う。
むら川Instagram:@noriben_murakawa_official
看板メニュー「サーモンのレアカツ海苔弁当」の誕生秘話
――看板メニューの「サーモンのレアカツ海苔(のり)弁当(以下、レアカツ)」(税込1,300円)は、むら川の象徴ですよね。このメニューは最初からあったのでしょうか?
玉川さん:実は、むら川は、レアカツ一品だけで始まったブランドでした。フレッシュな食感を叶えるため、サーモンの火入れには繊細な技術が求められます。また、保健所の検査基準をクリアするため、サーモンを「漬け」にするなど調理の工夫を重ねて生まれたメニューです。

――キッチンカーというと丼もののイメージが強いですが、むら川のお弁当はメイン食材以外の副菜も充実していますね。
玉川さん:味の種類を少しでも多くしたいという思いがあるんです。というのも、キッチンカーを始めた当時は、むら川以外にもいくつかのブランドを手掛けていて、その中に丼ものもありました。ただしばらくすると売り上げに差が出て、生き残ったものの共通点を分析すると、どうやら「味の種類」が重要そうだという傾向が見えてきて。
――たしかにキッチンカーのメニューはご飯ものも多く、味の種類が少なくなりがちですよね。そうしてメニューを工夫することで、月商は順調に1800万円まで伸びたのでしょうか?
玉川さん:当初は1つ1000円のサーモンのレアカツだけを売っていて、1日30〜40食ほどでした。キッチンカー単体で見れば悲観するほどの数字ではありませんが、経営面ではヒリヒリしていて。このままだと会社の資金を食いつぶす一方だと、撤退が頭をよぎった時期もあります。ただ、料理のクオリティーには自信があったので、このまま終わらせるのはもったいないという思いも同時にありました。
――その状況をどう打破したのでしょう?
玉川さん:メニューに松竹梅のバリエーションをつけたんです。レアカツはそのままに、お手頃価格でデイリーに買える唐揚げ弁当などを追加しました。すると、売り上げが伸びていった。

――メニューの選び方という観点で、お客さまは安い価格帯のメニューから入って、だんだん高いメニューへ移っていくのでしょうか?
玉川さん:新規のお客さまでも最初からレアカツを選ばれる方は多いです。葱塩ダレの唐揚げ海苔弁当(税込850円)に「サーモンをトッピングできませんか」とご相談いただくこともあります。つまり値段ではなく、本当に食べたいものを選んでくださっている。松竹梅は価格の階段というより、バリエーションなんです。お客さまの予算や気分の幅に応えられるようにした、という感覚に近いですね。
――ただ、副菜の数も多く、商品数もキッチンカーの台数も増えていくとなると、仕込みが負担になりそうです。
玉川さん:おっしゃる通り、台数と販売食数が増えるにつれて、自前での仕込みが限界を迎えました。そこでOEM化(製造外注)に踏み切ったんです。既製品を使うということですから、最初は少なからず抵抗もありました。ただ、新たにスタッフを雇うことを考えると、この方法しかないと。幸い、お世話になっているOEM会社さんが何度も試作を重ね、品質を担保してくださいました。そのお力添えがあって、今の味と価格が実現できています。
キッチンカーは実店舗に「勝る」?
――ここからはキッチンカーと固定店舗の違いや、キッチンカーならではの強みを深掘りします。玉川さんはもともと固定店舗も経営されていたそうですね。
玉川さん:そうですね。でもキッチンカーをやって初めて、「キッチンカーは固定店舗に勝ることもある」と感じました。
――それはなぜでしょう?
玉川さん:固定店舗の売り上げには「席数×回転数」という上限があります。でもキッチンカーに席数の上限はなく、オペレーションや出店時間を工夫すれば、お昼だけで数百人ものお客さまを受け入れられる。これは通常のランチ営業では考えられないことだと思います。
――席数の制約から解放される、というのは大きいですよね。
玉川さん:もう一つの違いは、お客さまのいる場所へこちらから足を運べることです。固定店舗は立地次第で集客に苦労しますが、キッチンカーは立地の制約もあまり受けません。もちろん、どこへでも出店できるわけではありませんが、オフィスや学校、病院など、お客さまが比較的集まりやすい場所へ出向けます。
しかも、出店場所ごとにお客さまの層は違うので、価格設定などを工夫すればあらゆるニーズを掬い上げられます。
――ひとつの場所との相性が悪くても別の場所に行けばいい、とも解釈できそうですね。
玉川さん:はい。そう考えると、「一度来たお客さまが来なくなる」というダメージは、むしろ固定店舗のほうが大きいのかもしれません。

正直、固定店舗とキッチンカーはまったく別物だと思っています。「キッチン」と名前はついていますが、固定店舗ほどの厨房機能はなく、日々「これがあったらいいのに」と思うことばかりです。それでも何ができるかを考え、お客さまの体験価値を上げていく。固定店舗とは違う「筋肉」が必要なのかもしれません。
短い営業時間で売り切るために「捨てたこだわり」
――「固定店舗とは違う筋肉」と表現されましたが、逆に固定店舗と比べてキッチンカーがシビアな点はあるのでしょうか?
玉川さん:営業時間の制限でしょうか。基本的にお昼の営業時間での売り上げが、その日の総売り上げとなります。「ランチがダメでも夜で巻き返す」といったことはできません。この短い時間で売り上げをどう最大化するかが、勝負の分かれ目です。
――あと、天候の影響はどうでしょうか? 屋根のない場所に出店することもありますよね。
玉川さん:たしかに雨は厄介です。実際、前日の夜に雨予報が出ていると、出社時にお弁当を買ってきたり、在宅に切り替えたりするお客さまも増えるので。
ただ、だからと言って特別な対策を打っているわけではありません。出店日に雨が降ると分かっていれば販売量を調整することもありますが、基本は「(雨の悪影響を)受け入れる」ことが前提です。以前は雨の日割引も実施したのですが、そうすると雨の日にしか来なくなってしまうお客さまが増えてしまい……。
ちなみに、屋根のある出店場所では、天気が悪いほうが売り上げが伸びることもあるんですよ。
――なるほど、面白いですね。であれば、尚更お昼の時間に「売り切る」ことが大事になってくる。
玉川さん:そうですね。だからオペレーションが大事なんです。お客さまがいらっしゃってから作り始めるとお待たせしてしまい、お客さまの取りこぼしにもつながります。だから「来る」と信じて、どんどん作って、どんどんお渡しする。
揚げ物を揚げるタイミングを少し間違えるだけで一気に行列ができ、提供のタイミングも遅れますから、調理手順も仕組み化して誰がやっても同じものを出せるようにする必要がある。どんなに行列ができていても「5分待てば買える」とお客さまに感じていただかなければいけません。
そのために私たちが手放したのが、「出来たて」へのこだわりでした。
――─出来たてを、あえて捨てる。
玉川さん:もちろん出来たてで出したい気持ちは間違っていません。ただ、「買ったお弁当が何分後に食べられているのか」と考えてみてください。その場ですぐには食べませんよね。だいたいオフィスの自席に戻るまで5分ほど。高層ビルならエレベーター渋滞もあって、10分近く経っていることもある。それはもう「出来たて」ではない。だったら、出来たてにこだわらず、とにかく早くお渡しできることを優先しようと。
――オペレーションを最適化するにあたっては、新人スタッフへの教育も大事になるのではないでしょうか?
玉川さん:そうですね。スタッフが一人立ちするまでに2カ月ほど。比較的落ち着いた出店場所から入って、少しずつ慣れてもらっています。

私たちは「現場を温める」という言い方をするのですが、ひとつの出店場所を育てるのに、本当に1年くらいかけるんです。
――早くお渡しすることが大切なら、お客さまとのコミュニケーションはあまり重視していないのでしょうか?
玉川さん:いえ、むしろとても重視しています。といっても、基本商品を受け渡すタイミングでしかコミュニケーションを取らないので、15秒、30秒の世界なのですが、その中で「いらっしゃいませ」ではなく、「こんにちは」「今日もありがとうございます」と声をかけて、「あなたを覚えていますよ」という気持ちを一言で伝える。それだけで全然違います。苦手な副菜があるお客さまには、言われる前に抜いてお渡ししたりもしますね。
思うに、接客の時間が短いからこそ、記憶への残り方が違うのでしょうね。「今日、いつもより来るの早いですね」と言うだけで、お客さまは「覚えていてくれた」と感じてくださる。差し入れをいただくこともありますし、こちらもサービスしたり。一瞬ですが、お互いの気持ちが交わる瞬間があるんです。
単日でむら川より売っている事業者さんが3〜4組いらっしゃって、その方々のキッチンカーは、お客さまが全員常連さんなんじゃないかと思うほどですよ。
キッチンカーは「簡単じゃない」。それでもライバルは大歓迎
――いい出店場所は競合も多いように思います。むら川としては、どう戦っていくのでしょうか。
玉川さん:私たちの考えでは、競合は大歓迎なんです。たくさん売る事業者が周りにいると、その場所に「キッチンカーの文化」が根づく。もちろんトップは狙いますが、勝ったり負けたり、ハラハラしたりするくらいの現場のほうが盛り上がるのではないかと。
――記事を読んでキッチンカーに興味を持つ飲食店オーナーの方もいると思います。キッチンカーを始めるにあたってのアドバイスがあれば、お聞かせください。
玉川さん:まず、初期費用は実はそれほど安くありません。車両に加えて、仕込み場の整備や機材、冷凍・冷蔵庫まで考えるとだいたい500〜600万円ほどはかかる。小さな店舗を開いたほうが安く済むこともあります。安易に「簡単だ」と思わない方がいいかもしれません。
その上で、ライバルはどんどん出てきてほしいとは思います。これは業界全体でキッチンカーの体験価値を上げていかなければいけないと感じているからです。始めたばかりの方々を淘汰するのではなく、いっしょに上を目指していきたい。
飲食業界は「人件費はこれくらい」「原価率はこのくらい」のような固定観念もまだまだ大きな世界ですが、必ずしもそれに当てはまる事例ばかりではありません。時代に合わせて手法をアップデートしていくこと、そしてブレないこと。その2つがキッチンカーのビジネスを続けていく上では大事だと思います。

気になるあのお店のLINE公式アカウント活用事例
【取材先】
海苔弁むら川 本店
Instagram:@noriben_murakawa_official
取材・文/花沢亜衣
東京生まれ。食や暮らしにまつわるジャンルを中心にWEBメディア・雑誌で編集や執筆を行う。三度の飯より食べることが好き。一番好きなお酒は青空の下で飲むお酒。2023年J.S.A.ワインエキスパート呼称資格取得。2025年5月に酔談録『二軒目は路面店』を発売。
Instagram:@aipon79
写真:加藤岳
編集:はてな編集部


