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第164回 徳永英明「壊れかけのRadio」
 今回は、このコラム初登場の徳永英明である。実は、彼以外にもまだまだ取り上げていないアーティスト(しかも、人気者・実力者)が一杯いる。原因は、私の怠慢以外の何物でもないが、ファンの皆様…、本当にスミマセン。でも、ここで徳永英明を取り上げるというのは、いいタイミングではなかろうか。デビュー40周年の節目だし、様々なところで話題も華やかで、さらに新作『COVERS』もリリースされたばかり。ライブのスケジュールも活況だ。ではさっそく始めたい。

が、その前に。本コラムを初めてお読みいただく方もいらっしゃると思うので、お断りしておく。ここは特定の作品の歌詞についてのみ書く場所なので、そのあたりよろしくお願い致します。で、やはりまずは「壊れかけのRadio」を。
イノセンスの喪失、イノセンスからの決別
 この名曲は、[何も聞こえない]から始まっていく。そのあとは何も[聞かせてくれない]だから、ちょっと穏便ではない。でも、なぜ聞こえない、聞かせてくれない、のだろうか。そもそもラジオというのは聞くものだ。早くも引き込まれる一行目、二行目である。

ここで、主人公は自分の身体が[大人になったからなのか]と自問する。ただ、答えらしきものは見当たらない。

とても鮮やかな始まり方だし、これはまさに、イノセンス(純粋無垢さ)からの決別を描いている。主人公は年齢を重ね、矛盾や欺瞞とも無関係じゃなくなっていく。

なので、この[何も聞こえない]というのは、世の中の騒音が激しくなっていった状態を表すし、主人公が両耳を固く手で覆ってしまった状態を表現しているとも言えるのだ。そしてこの作品の、あの胸に熱く響く、サビの歌詞が聞こえてくる。
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「壊れかけのRadio」
1990年7月7日発売
歌詞を見る。

徳永英明
1986年1月21日、シングル「レイニー ブルー」、アルバム『Girl』でデビュー。1987年にリリースされた4枚目のシングル「輝きながら…」で大ヒットを記録。その後も「風のエオリア」「最後の言い訳」「夢を信じて」「壊れかけのRadio」など次々とヒット曲を発表。傍らテレビドラマや映画などでも活躍。

2005年、デビュー20周年に向けて制作された“女性アーティストの名曲をカヴァー”するというコンセプトで制作されたアルバム『VOCALIST』は、徳永がヴォーカリストという立場に徹し、言霊の素晴らしさを確かめながら、徳永の切なくて優しい繊細な歌声で紡ぐ魅力に溢れた作品としてロングヒット。進むべき新たな道を切り開いた。かくして人気シリーズとなった『VOCALIST』は2015年までにシリーズ6作品まで達し、“カヴァーアルバム”という位置付けを変えるオリジナルブランドを作り上げた。
[思春期に少年から] [大人に変わる]
 『ライ麦畑でつかまえて』ではないけれど、まさにここで、イノセントからの決別を歌っているのだ。回りくどい表現ではなく、ずばり[思春期]という言葉を用いて。なんとも潔い。

しかも、結論にまでたどり着くのではなく、これはその“渦中の戸惑い”を描いている歌だ。“そして大人になりました”、までは歌っていない。ここがまさに「壊れかけのRadio」の胸キュンなところなのだと個人的に思っている。
ラジオとRadio
 さて、徐々に本題だ。この作品のひとつの特徴として、[ラジオ]と[Radio]、ふたつの表記が登場していることが挙げられる。歌う際の発音的には前者が“らぢお”で後者が“れいでぃお”だ。

最初のほうに出てくる[黒いラジオ]に関しては、そのまま受け止めればいい。主人公が初めて買った、さほど大きくはないトランジスタ・ラジオが想像される。この[ラジオ]で主人公は、もちろん音楽をたくさん聴いただろう。でも、時代を彩るニュースにも、同時に触れていたと思われる。そんなニュアンスが歌から伝わる。

そして、もうひとつが[壊れかけのRadio]というタイトル(およびサビの歌詞)のなかの[Radio]だ。こちらは暗喩表現であり、歌全体から推測すると、“自分自身のこと”と受け取るのが妥当だろう。今現在の“自分自身のココロの状態”と言ってもいいかもしれない。

自分という[Radio]、そこに備え付けられた小さなスピーカーは、どうも調子が悪くなってしまった。でも、まだ大丈夫。完全に壊れたわけではない。“電池交換”をしたり、“チューニング”し直したりという余地なら、まだあるのだ。そう考えると、つくづくこの「壊れかけのRadio」というタイトルの“壊れかけ”という表現はニュアンス豊かだなぁと感心する。“壊れたRadio”だったら、即刻この話は終了なのだ。

今はうねる様な雑音しか発していないかもしれないラジオが、そこを通過し、再びまっとうな音をスピーカーから流し始めたのなら、それはきっと今まで聞いたことのない音楽やアナウンスなんだろうな、という期待を膨らませる。
ラジオ・ソングとしての特色
 最後にぐっと視野を広げて、漠然とラジオが登場する作品、という括りでみてみよう。僕がぱっと思い浮かぶのはRCサクセションの「トランジスタ・ラジオ」とか、洋楽なら「ラジオ・スターの悲劇」とか「レディオ・ガガ」とかなのだが、これらは基本的にラジオ文化を称えるものだ。それに比べて「壊れかけのRadio」の世界観は、実にユニークなのがわかる。自分自身をラジオに例えるというのは、なかなか他にはないアイデアではなかろうか。
INFORMATION
カヴァーアルバム『COVERS』

2026年1月21日発売
COCB-42611 ¥3,850 (税込)

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配信情報
<収録曲>
01. 夢伝説 (スターダスト☆レビュー)
04. 帰れない二人 (井上陽水)
05. つぐない (テレサ・テン)
06. JAM (THE YELLOW MONKEY)
07. メロディー (玉置浩二)
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