レジリエンスを高めることで、課題に対する個人や企業の柔軟な対応が可能になる。Kathleen Vignos氏曰く、個人のレジリエンス、技術におけるレジリエンス、企業のレジリエンスの根底には、それぞれ適応力、幅広いツールの習得、柔軟性と強力なネットワークが必要になるという。 急速に変化するソフトウェア業界では、技術変化にアンテナを広げ、新たな知識の吸収して柔軟性を高め、協業を進めることがレジリエンス向上につながるというのだ。
QCon San Franciscoで、Kathleen Vignos氏が業界全体でレジリエンスを高める方向性について講演した。
レジリエンスがあれば、刺激や外圧に屈することなく柔軟にしなることができる。物理的なレジリエンスの程度は、調べたいものを引き押しして感触を確かめることで確認可能だ、と同氏は語る。
個人のレジリエンスは、業務進捗に遅れが生じ、業務状況への迅速な適応が余儀なくされる中で養われる、というのが同氏の見解だ。また、技術におけるレジリエンスは慣れ親しんだツールと新しいものを交互に切り替えるなかで得られる一方、企業のレジリエンスは専門を共にする同業者間のネットワークから生まれる。そのため、企業としての業績が振るわずとも、個人単位では他の選択肢がバックアップとして確保できるのだ、と付け加える。
急速なイノベーションを迫られる企業が生き残るにはレジリエンスの獲得が不可欠になっている、と同氏は説明する。
ソフトウェア業界ほど変化が急速な業界は類を見ません。スキルやツール、従事者規模、業界資金だけでなく、ユーザー規模も増え続けています。外部要因の影響が絶えずビジネスを変容させるため、ロードマップや企業組織図、スキルセットの変化に対する柔軟な適用力が求められています。
技術革新には変化の波やパターンがあり、こうした技術サイクルを理解することが変化に柔軟に対応するレジリエンスの向上につながる。新しい技術の登場は大きな転換ポイントになる。過去においては、インターネット、携帯電話、クラウドコンピューティングなどの台頭が大きな転換を生み、今日では、AIの誕生が大きな変化をもたらそうとしている。こうした技術変化のサイクルは、「台頭、隆起、破壊的イノベーション、成熟、汎用化」という一連の流れに沿って推移する。 従事者や企業が各フェーズの推移にいち早く気付くことができれば、目まぐるしい変化を続けるこの業界で問われるレジリエンスをきっと獲得することができるだろう、と語る。
技術変革へのレジリエンスを獲得する上で重要となるのは、拡張可能なAPIをモジュラーアーキテクチャに導入実装し、新たな技術トレンド動向にアンテナを広げ、情報をアップデートする企業文化や習慣を育むことである、と同氏は提唱する。
また、同氏は、レジリエンスを企業の文化や習慣として根付かせるには、転換期に組織のリーダーが適応性を発揮して新たな知識を吸収し、率先して業績維持の工夫をすることが重要だ、という。2018年施行のEU一般データ保護規則(GDPR)に合わせて、2016~2018年の間に多くの企業が対応を迫られた。 EU内で事業を継続する企業には、この規定を順守し、各ユーザーに自身の個人情報へのアクセス権、削除権限、企業による使用用途を制限する権利、そして使用用途を知る権利を付与することが求められた。
当時の私は、GDPR順守に向けた全社的なプロジェクトに携わっていました。こうした場面では、チームやプロジェクトメンバーの一人一人が、ユーザー保護への関心から成長マインドセットを養い、既存知識をアップデートできるかにプロジェクトの成功が大きくかかっています。我々の事例では、率先した業務プロセス変更や開発ライフサイクル変更で弊社を新たな規則に対応させられるか、交流のないチームや部門と協業して比較的時間のない中でも膨大な作業を調整処理できるかが、キーポイントでした。 苦心の結果、数億ドルの罰金を免れたばかりか、EU内の数千万のユーザーへサービス提供を継続することができるようになりました。
成長マインドセットを促進しアイディアを行動に移せる環境の作り、個人やチームの自律性の奨励、専門を超えた協業の活性化。同氏の見解では、これらすべてが企業の文化習慣としてのレジリエンス向上に役立ち、コンプライアンス順守や企業の経営存続につながるとしている。
AIもレジリエンスの向上に役立てられるという。AIを使用した大規模データセット分析で迅速な意思決定が可能になるほか、単調な作業の自動化や予測可能な洞察をAIから得ることで、企業や従業員が変化を迫られた際の適応や立て直し、復旧プロセスがスムーズになるというのだ。
自身のキャリアにおける逆境や挑戦のすべてが、レジリエンスを養う機会になったと、同氏は振り返る。好きな言葉として、Oprah氏の名言「傷を知恵に変えなさい(Turn your wounds into wisdom)」という言葉を紹介し、講演を締めくくった。
InfoQでは、企業の文化習慣としてのレジリエンスを育み方について、 Kathleen Vignos氏とインタビューを行った。
InfoQ: どうして、ソフトウェア企業でレジリエンスが重要となるのでしょうか?
Kathleen Vignos氏: 2020年にClubhouseアプリが注目を集めたときのことがいい例になるでしょう。 テック事業家やベンチャー投資家、セレブ同士でのオフレコ会話がゲリラ配信され、多くのユーザーの注目の的となりました。一方、弊社Twitter社では、数年前にPeriscope社を買収し、同社の動画配信技術を活用して社内の全MTGを数千人規模のユーザーに向けて配信公開していました(Periscopeにあわせた新しいAWSリージョンの立ち上げを15行ほどのコードで達成してスケーリングを可能にしてくれたエンジニアなしでは、実現しえなかったことでしょう)。
当初、Clubhouseのスケーリングでは1000人以上のリスナー規模に対応できませんでしたが、これは、弊社にとって絶好の機会となりました。Periscopeの技術を活用し、わずか数ヶ月でTwitter Spacesを立ち上げることができたのです。膨大なスケーリング能力や、一月当たり3億人以上のアクティブユーザーネットワークを有するリスナー集客の優位性から、Twitter SpacesやFacebook Live Audioのような他のプラットフォームの存在はClubhouseの人気が低迷する要因となりました。
Clubhouseの話は、一企業のリーダー、従業員、そして技術におけるレジリエンスとアジリティが同業他社を凌駕したいいモデルケースです。変化に対応すべくより入念な用意ができていた企業が、社として存続することになりました。少なくとも、数年がたった現時点では、変化への順応の差が社としての明暗を分けた結果となっています。
InfoQ: ソフトウェア開発者がレジリエンスを高めるには、どうすればよいのでしょうか?
Vignos氏:私の開発者としてのキャリアの中で、題材になりそうな経験がいくつかあります。プロジェクトデリバリーの段階まで来て、ロードマップが変更されたことがありました。資金面やプロジェクトリーダーの変更、あるいは他の理由もあったかもしれませんが、立ち上げから携わり、心血を注いできたプロジェクトの完遂まで見届けられないという点に、自分のモチベーションが削がれてしまったと感じました。
今の私からのアドバイスは、「タスクに執着しすぎないこと」です。長期プロジェクトに携わる場合は、長期的な成果を見届けることではなく、短期的スパンでも達成感を得られるマイルストーンを意識しておくことが重要になります。他の開発者にタスクを柔軟に引き継げる心づもりをし、新規に別タスクに携わる機会があれば、そのタスクに注力を移すことができるようにしておくといいでしょう。
私は以前、フリーランス開発者としても活動しており、その当時の給与は時間給で支払われていました。なので、もしクライアントの心変わりで作業が中止されようと、報酬が支払われるからと自分に言い聞かせるようにしていました。「まあ、いいか!」の精神です。