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記事全文を読む→【消えた本塁打】長嶋茂雄の「新人トリプルスリー」プロ野球史上初の偉業を阻止した広島カープの一塁手「足跡」事件
縦横38.1センチ。長年親しんできたプロ野球の一塁から三塁のベース板が、今季から45.72センチに拡大された。このわずか7.62センチの違いによって、これからのプロ野球ドラマが、少し別の調味料を加えたように変化していく可能性がある。
ここで紹介するのは、筆者の新刊本「カープ不滅のスラッガー伝説」(2枚目の写真)で描いたミスタープロ野球・長嶋茂雄の知られざるエピソードである。

1958年9月19日の広島×巨人戦。1-1で迎えた5回裏。ルーキー長嶋はすでにセリーグの本塁打王が確実視されていた。カープの投手は同年に西鉄(現・西武)から移籍してきた鵜狩道夫。カウント0-2となり、鵜狩がインハイに直球を投げた。その球がやや体に近い高めだったため、長嶋は大根切りのようにしてバットを振り抜いた。
打球は左翼席に吸い込まれ、28号ホームランが生まれた。長嶋が大喜びして一塁ベースを回る。しかしここから、ドラマが始まった。
一塁手の藤井弘は、長嶋が通過したあと、後ろを振り返った。そこで重大なことに気付く。一塁ベース横の数センチのところに、ポッコリと大きな長嶋の足型が残っていたのである。
藤井はすぐに塁審・竹元勝雄の顔を見た。一瞬、目と目が合った。竹元の「困ったなあ」というような表情を見て、藤井は全てを察した。藤井は長嶋がダイヤモンドを一周するまで、誰にも足跡が消されないように、さり気なくそこを守った。
長嶋がホームインし、巨人ベンチは大盛り上がりである。その光景を見ながら、藤井は冷静だった。次のプレーのために主審から鵜狩に新しい球が渡り、再びプレーボールがかかった瞬間に、藤井が叫ぶ。
「ミッチ(鵜狩)! ボールをこっち、こっちに投げろ!」
守り抜いた「動かぬ証拠」に「アウト!」のコール
鵜狩は状況がよく分からなかったが、とにかく藤井が強く指示するので、仕方なく球を投げた。その直後、場内に竹元のコールが響く。
「アウト!」
巨人ベンチから水原茂監督が飛び出してきた。しかし藤井、いや竹元側には動かぬ証拠があった。そう、それは藤井が守り抜いた、あの「長嶋のポッコリ足跡」である。ちなみにこの試合は4-2でカープが勝利した。
ここから記録…というか、球史の話になる。このシーズンの長嶋は29本塁打を放ち、新人王に加え、ルーキーとして史上初めて本塁打王に輝いた。そしてシーズン通算で打率3割5厘、37盗塁37、29本塁打…。
ここまで書けば、誰でも気付く。そう、長嶋はあの1本の幻のホームランによって、新人として史上初めてのトリプルスリー(3割30本30盗塁)の大記録を逃したのである。
その陰にあったのは、たとえ相手が球界の大物ルーキーであったとしても、状況をウヤムヤにしなかった藤井の冷静かつ公正な判断だった。もしあの時代に、わずか7.62センチ差であったとしても、ベース板がもう少し大きかったら、長嶋のトリプルスリーが球史に刻まれていた…かもしれない。
(迫勝則/作家)
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