初めに言っておかなければならないことがある。わたしは自分でも驚くほど多くのMoonSwatch(ムーンスウォッチ)を所有している。『WIRED』で製品をすすめる以上、実際に買って確かめないわけにはいかないのだ。1本285ドルだが、その積み重ねでスウォッチはわたしから相当な金額を引き出すことに成功している。
これは間違いなく、このスイス企業の“謀略”である。人々をおびき寄せ、じんわりと時計沼へと引き込んでいるのだ。いわば、時計版の“ゆでガエル”である。そしてその作戦はうまくいっている。これまでMoonSwatchの販売によって、スウォッチはすでに数億ドル規模の利益を手にしているのだ。
わたしは、この非常に収益性の高いオメガとスウォッチのコラボがどのように実現したのかを初めて報じて以来、このコラボ商品のファンである。ただし、「Moonshine Gold」から派生したモデルにはどうしても好感をもてなかった。オメガ独自の18Kを使った淡い金色の合金(Moonshine Gold)をほんの少しだけ使い、各モデルのデザインをわずかに変えて展開していたからだ。コレクションをすべて揃えようとするMoonSwatchの熱心なファンを狙った、誠実さに欠ける手法に思えたのである。
わたしは、所有するすべてのMoonSwatchのストラップを45ドル(日本では6,710円)の公式カラーラバーストラップを付け替えたほどのファンだ。しかしいま、もうMoonSwatchは十分だと思い、距離を置こうとしていたまさにそのとき、わたしはまんまと引き戻されてしまった。それもMoonshine Goldモデルである、新しい「MISSION TO EARTHPHASE - MOONSHINE GOLD Cold Moon」によって。
“1点もの”仕様
製品名は長くてわかりづらいが、このモデルは純白の2024年版スヌーピーモデル(コレクション全体のなかで『WIRED』が最も高く評価している一品)をベースに、Earthphase MoonSwatchの要素を組み合わせた製品となっている。また、質の劣る従来のストラップは、白と青のより上質なスウォッチ製ベルクロ付きラバーストラップへと改められた。見た目は非常に魅力的である。しかし、これが「Cold Moon」モデルの最大の魅力ではない。
450ドル(日本では57,200円)のこのモデルにはすべて、ムーンフェイズ表示にあるオメガのMoonshine Goldでコーティングされた月のひとつに雪の結晶がレーザーで刻印されている。そして、この雪の結晶は本物と同じように一つひとつ模様が異なると、スウォッチは説明する。同社が年間に生産するMoonSwatchの数を考えると、これは決して簡単に実現できることではない。
この試みは、スウォッチが最近発表した「AI-DADA」ツールを思い起こさせる。これはOpenAIの技術を使い、AIプロンプトから独自のSwatchデザインを生成できるというものだ。残念ながらMoonSwatchではまだ利用できない。だが、「Cold Moon」モデルでは、一つひとつ異なる雪の結晶模様のおかげで、MoonSwatchの所有者も“1点もの”を手にしたような感覚を多少なりとも味わえるというわけだ。
スウォッチがこの“特別仕様”をどのように実現するのかは明らかになっていない。説明を求めたものの、同社からの回答は「少なくとも現時点では答えられない」という、どうにも腑に落ちないものだった。個人的には、この雪の結晶の生成にOpenAIのAI-DADAプラットフォームの一部が用いられていることを期待している。とはいえ、Swatchが詳細を明かすまでは推測の域を出ない。
雪の日にのみ販売
しかし、このモデルで特筆すべきなのはデザインよりも、その入手方法──より正確には“買えるタイミング”だ。現在、一部のMoonSwatchはオンラインで購入できるようになっているものの、この新モデルは販売方法が特殊なため、従来のものより入手が難しい可能性が高い。
Cold Moon(42ミリモデル)は、12月4日(日本では12月5日の“コールドムーン”の日)から、2026年3月20日の北半球の冬の最終日まで世界中のSwatchストアで販売される。しかし、2025年12月5日の翌日からは、購入できるのは「スイスで雪が降っている日」のみだ。スウォッチは、「雪を見たことのない国でも、次の降雪を待ちわびるようになるでしょう」と説明している。
これはスウォッチによる新たな“計略”である。MoonSwatchファンが冬のうちにCold Moonを手に入れるためには、スイスで雪が降る日を逃さないよう降雪情報を追う必要があるのだ。
(Originally published on wired.com, translated by Nozomi Okuma, edited by Mamiko Nakano)
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