レジェンドへの敬意はペンライトで示せ、超会議カオスの中にテクノロジーガバナンスモデル
「ニコニコ超会議2026」(千葉・幕張メッセ、4月25・26日開催)で国立研究所が奮闘している。理化学研究所は量子コンピューター、高エネルギー加速器研究機構(KEK)はノーベル賞メダルを初めて展示した。産業技術総合研究所は研究所自体が初出展。研究者がペンライトや推しうちわで迎えられた。歌うわけでも、踊るわけでもない。まじめなシステム開発の講演に聴衆は頷き、声援を送った。ユーザーコミュニティーの熱量は研究者や技術を育てる。AI(人工知能)時代のコミュニティー作りやテクノロジーガバナンスの一つのモデルになる。(小寺貴之)
「やっぱり知らない人と話すのは大切。慣れた相手だと話していても脳みそを使わない。相手が何を考えどう理解しているか、頭をフル回転させながら話すと気がついていなかった視点が見えてくる」-。KEKの浅井祥仁機構長は頬を緩める。KEKの超会議への参加は4回目。目的は科学のファン作りやKEKの認知度向上を掲げるが、「予想できない質問が出るから、学会よりも楽しいよね」と目を細める。
超会議ではコスプレやゲームなど、目的のブースの合間にふらっと寄って先端研究を楽しんでいく。キャンパス公開などに集まる科学ファンとは異なる層にリーチできる。そして超会議参加者は自分の好きなことを日々追究している。創作と研究で領域は異なるものの、探究に敬意を払う姿勢は同じだ。
理研の西之園真一マネージャーは「理研の認知度を分析すると女性の若年層が弱い。超会議は男女が半々で若い人が多い。なにより研究に興味を持ってくれる」と説明する。理研は量子コンピューターの中身を3DモデルやVRで展示した。初めは関心が薄くても、触れば面白さが伝わる。超会議は研究機関と相性のいいイベントになった。
会場ではスパコン「富岳」と計算速度の対決ができる。性能は桁違いだが「足し算だからワンチャンあるかも」が誘い文句だ。万が一負けても富岳のミニチュアがもらえる。
産総研は音楽情報処理とゼロエミッションモビリティを出展した。燃焼させても温室効果ガス(GHG)を排出しない水素エンジンなどのカットモデルを並べた。来場者は実物を見て触りながら研究者と話せる。
後藤真孝上席首席研究員のミニミニ講演は40分前から席取りが始まった。イスなどはないため、体育座りで音楽に合わせてペンライトを振り、推しうちわで待機する。講演の内容はいたってまじめだ。音楽発掘サービス「Kiite(キイテ)」の開発経緯や推薦エンジンのアルゴリズムなど、お堅い講演だった。それでもユーザーと開発の歴史をたどると、苦労にはみなで頷き、ブレイクスルーには声援が飛んだ。
キイテは2019年に発表され、毎年のように機能を追加してきている。自分の好きな楽曲をプレイリストにまとめると、他のユーザーと共有できる。自分の好きな曲を広めたり、誰かの「好き」を基に新しい曲を発見したりできる。ユーザーが自ら創作するボーカロイド音楽に合致した。
コミュニティーに評価されたのは、その理念だ。後藤上席首席研究員は「よく聞かれているヘッドでなく、ロングテールに光を当てたい。聴き手へのマッチングだけでなく、作り手を大切にしたかった」と説明する。そこで再生回数ではなく、音楽の構造に基づいて似た雰囲気の音楽を推薦する。そのため再生回数がゼロであっても推薦に上がってくる。
音楽は個人制作が可能なためクリエイターは多い。ロングテールに埋もれてしまう楽曲は必然的に多くなる。だが好きなら平等に推薦されるべきだ。それが作品への評価とフィードバックを生み、次の創作を促す。台湾から来日したEjiさんは「YouTubeなどのアルゴリズムは秘密で商業主義が入っていてもわからない。キイテは公平で公開されている。そして音楽を理解して推薦してくれる」と評価する。
キイテの理念が評価されてユーザーが増えると、ユーザーから次に欲しいニーズが集まった。一緒に同じ曲を聴く機能や一緒に音楽イベントを開催する機能、音楽のサビを次々に聴いて発掘する機能などを開発、追加していった。後藤上級首席研究員は「イベント開催など、こんな機能がほしいんだとユーザーから教えてもらった」と振り返る。
ユーザーもただ利用するだけではない。開催イベントのスケジュール管理機能など、サードパーティとして機能を開発し追加している。キイテは無料。研究者とユーザーの熱意でニーズの開拓と機能実装が進んでいる。従来型の研究開発ではなく、コミュニティーと一緒に共創する開発アプローチだ。こうして後藤上級首席研究員は界隈のレジェンドになった。
産総研は研究者の評価軸を修正した。情報分野は技術成熟度のTRL評価を変更し、開発速度やユーザー評価とのマッチング、回転数などをTRLに取り入れている。宮崎歴理事は「ユーザーとともに作り上げていくプロセスが研究者の業績評価につながる」と説明する。これはAI時代のテクノロジーガバナンスのモデルになる。ビックテックなどにプラットフォームを寡占されると、推薦アルゴリズムや対価還元制度にユーザーの声が反映されにくくなる。キイテのように理念やサービスが実際に成立することを示せれば、選択肢として提案できる。プラットフォームの規模や資金力に差があっても、選択肢があるか、ないかはAI主権の観点から極めて重要になる。
研究者の理念はコミュニティーを惹きつけ、コミュニティーの熱量は技術と研究者を育てる。このサイクルの中でコミュニティーとして大切にする価値や仕組みが磨かれ、具現化していく。AI時代のカオスを乗り越えるヒントは超会議のカオスの中にあるのかもしれない。