鰍沢
『鰍沢』(かじかざわ)は古典落語の演目。別題に『鰍沢雪の酒宴』(かじかざわゆきのしゅえん)、『鰍沢雪の夜噺』(かじかざわゆきのよばなし)、『月の輪お熊』(つきのわおくま)[1]。
一般に三遊亭圓朝の三題噺とされてきた。東大落語会によれば題は「小室山の御封」「玉子酒」「熊の膏薬」[2]。ただし、「鉄砲」「卵酒」「毒消しの護符」とされる場合もある[3][4]。また、『落語の鑑賞201』(2002年)によれば、河竹黙阿弥による後半の台本が現存することから黙阿弥作の説があるとしている[4]。その黙阿弥による三題噺で、『鰍沢二席目』(かじかざわにせきめ)という続編がある[2]。
本項では『鰍沢二席目』についても扱う。
あらすじ
編集季節は冬。江戸の商人が甲州は身延山(久遠寺)参りに赴いたが、その帰り道に大雪に遭い、鰍沢のあたりで道に迷ってしまった。夜が迫る中で「南無妙法蓮華経」のお題目を唱えて雪の中を何とか進んでいると、偶然にも一軒家を発見する。家には、鄙には似つかわしくない妙齢の美女・お熊が一人で留守を守っていた。しばし問答の後、彼女は何の構いもできないが、と念を押して商人を家に招き入れる。
その家の主人は、熊の軟膏売りを生業とする猟師・伝三郎で、お熊はその妻だった。商人は雪道で冷えた体を囲炉裏で温めるうちに、お熊の正体が吉原遊廓の有名な花魁だと悟る。商人に問われ最初ははぐらかした彼女も最終的には認め、胸元の大きな傷を見せつつ、男と心中しつつも失敗し、足抜けして逃げ、今ではその男と夫婦で甲州の山中にわび住まいしていると語る。そして彼女は、自分たちの素性を秘密にしてほしいと訴え、商人も命の恩人の秘密を守ると答え、さらに謝礼として財布からいくらかの銭を渡す(この際、財布に大金が入っていること、それをお熊が一瞬、ジッと見詰める描写が入る)。
大金が入った商人の財布を確認したお熊、なぜか商人を親切にもてなし、卵酒を勧めてくる。下戸である商人は断るが彼女はしつこく、仕方なく表面を舐めるようにほんの少しだけ飲む。それだけですぐに酔いが回って眠くなり、お熊は奥座敷の布団で寝ることを勧める。商人は道中脇差など荷物を解いて傍らに置くと横になり眠入る。それを確認したお熊は、亭主の寝酒を買いに里に出る。
しばらくして主人の伝三郎が帰ってくる。彼は女房がいないことに悪態をつきながら、飲み残しの冷めた卵酒を見つける。冷めたにしても変な味がすると文句を言いながらも、それを飲み干したところで、ちょうどお熊が帰ってくる。表戸を開けようとする伝三郎だが、何故か身体が痺れてその場に倒れ込む。家に入ってきたお熊は亭主の異変、そして旅人に出した残りの卵酒が夫に飲まれたことを悟る。お熊は、商人の路銀を奪う企みで卵酒に痺れ薬を仕込んでいたのだった。その顛末を亭主に明かし、嘆く。
一方、奥の間で寝入っていた商人は、夫婦の会話で目を覚ましてしまう。毒いり卵酒の真相を知った彼は逃げようとするが、少量とは言え卵酒を口にしていたために身体の自由が効かない。廊下から庭の雪の中に倒れ込んでしまう。その際に、久遠寺の「毒消しの護符」を持参していたことを思い出し、雪と共にそれを飲み込むと、身体が少しは動くようになる。商人は道中脇差や荷物を取りに部屋に戻るが、その際の物音でお熊に気づかれる。逃げる旅人にお熊は「お前のせいで亭主は死んだ」、と逆恨みし、雪中を逃げる商人を亭主の火縄銃を手に追う。
商人は題目(南無妙法蓮華経)を唱えながら這う這うの体で逃げるが、地理の分からない冬山、鰍沢の崖に追い込まれてしまう。そこで雪が崩れてそのまま沢に転落する。だが、運良く岸につないであった筏の上に落ちる。そして落ちた時の衝撃で筏を係留していた蔓が切れ、旅人を載せたまま川を下る。それでもなお、お熊は諦めず商人を追い、銃弾を放つ。弾は反れるも筏はバラバラになり、商人はただ一本の丸太(材木)に縋り、一心不乱に題目を唱える。
やがて商人は、お熊の姿が見えないところまで流れくだっていた。窮地を脱したことを確認した商人は、一言。
「この大難を逃れたも、お祖師様のご利益。おザイモク(お材木・お題目)で助かった」
鰍沢二席目
編集河竹黙阿弥の作による続編。別題に『晦日の月の輪』(みそかのつきのわ)。これも三題噺であり、題は「花火」「後家」「峠茶屋」[2]。
鰍沢ではお熊の亭主・伝三郎の死は曖昧だが、本話では生きていたことになっている。
あらすじ(鰍沢二席目)
編集新潟の荒物屋の息子・宗二郎と江戸生まれの後家・お花が駆け落ちした。2人は善光寺に向かい、その途中の明神峠でお花が癪に苦しむのでそこにある茶屋で休むことにした。すると宗二郎は鉄砲で撃たれ死ぬ。実は、お花の正体はお熊であり、鉄砲の主は、生きていた彼女の亭主・伝三郎であった。2人は、お熊が金を持った男をたらしこみ、そのまま人がいない明神峠の茶屋まで連れてきたところを伝三郎が殺して、その金品を奪うという強盗を繰り返しており、既に7人が餌食となっていた。
今回も上手く言ったと2人が喜ぶ中で、宗二郎の幽霊が現れる。さらに突然の雨の中を茶屋に雨宿りで飛び込んできたのは、鰍沢でお熊に殺されかけた商人であった。商人は相手がお熊とわかると恨みを晴らすべく打ちかかる。幽霊と商人に敵わないと思った2人は逃げ出すものの谷間の崖から転落してしまう。
「南無三、二人ははるかの谷へ・・・」と語ってオチとなるが、その後に以下の文句が続く。
落ちのないはなしか。しめり切った花火を見るように中途で立ち消えだ。趣向と題と別々で、不釣り合いなはなしだ
不釣り合わせなところが後家でございます
翻案作品
編集登場作品
編集脚注
編集参考文献
編集- 東大落語会 (1994), 落語事典 増補 (改訂版 ed.), 青蛙房, ISBN 4-7905-0576-6
- 「鰍沢」成立考―円朝と黙阿弥 小島佐江子 「語文」(日本大学)1997-12