非接触型決済
非接触型決済(ひせっしょくがたけっさい、英: Contactless payment、コンタクトレス決済とも)は、クレジットカード・デビットカード・キーホルダー・スマートカードやスマートフォン等の携帯機器を、店舗の決済端末にかざすことで、RFIDやNFCを用いた無線通信で決済を行う仕組みである[1][2][3]。


クレジットカード会社およびスマートフォン製造企業の多くが採用する国際標準はEMV規格(Europay・Mastercard・Visaの3社が策定)であり、これに基づく非接触決済は一般に「コンタクトレス決済」と呼ばれる。そのほか日本では、各国際ブランドがVisaの訳語に由来する「タッチ決済」という呼称も用いており、「Visaのタッチ決済」「JCBのタッチ決済」等のサービス名で展開している[注釈 1]。
歴史
編集1990年代〜2000年代
編集非接触決済技術の早期採用例として、モービルは1997年にSpeedpassの名称で、参加するモービルのガソリンスタンドにおける非接触型決済サービスを開始した[要出典]。同年香港では、公共交通機関の運賃決済を目的とした八達通 (Octopus Card) のサービスが開始され、最初の3か月で300万枚以上のカードが発行された[4]。日本でも同年6月、遊園地「としまえん」でICチップとアンテナを内蔵した腕時計型の「キャッシュレスタグ」によるプール施設利用者向けのプリペイド式非接触決済が開始されており、これは日本での商用非接触決済の初期例の一つに数えられる[5][6]。
2002年、フィリップスがソニーと提携してNFC規格を策定。続いてフィリップス・セミコンダクターズが、オーストリアおよびフランスの技術者Franz AmtmannとPhilippe Maugarsが発明したNFCの基本特許6件を出願した[要出典]。
2005年5月、オランダでの実験を経て、月末一括後払い方式の非接触決済がドイツのハーナウの路面電車・バスで6か月間試験運用された。これにはフィリップスとソニーのNFC規格を用いたNokia3220が使用された[要出典]。同年10月にはフランスのカーンで、SamsungのNFC対応スマートフォンを用いた即時非接触決済の6か月実験が、Orangeとフィリップス・セミコンダクターズの協業により、Galeries LafayetteおよびMonoprixの店舗等で実施された[要出典]。
イギリス初の非接触カードは2007年9月にバークレイカードが発行した。同年、PayPassが世界初のNFC対応電話機Nokia 6131 NFCのニューヨークでの試験運用を行った[要出典]。2008年3月、Eatが非接触決済を採用した最初のレストランチェーンとなった[要出典]。
2010年代
編集2010年1月、バークレイカードはOrangeと提携し、イギリスでコンタクトレス決済搭載カードを発行開始した[要出典]。2010年代を通じて、Visaのタッチ決済(旧Visa payWave)、Mastercardコンタクトレス、American ExpressExpressPay等のコンタクトレス決済が広く普及した[要出典]。
2014年12月時点で、イギリスでは約5,800万枚のコンタクトレス決済対応カードと14万7,000台以上の対応端末が稼働[7]。2017年6月にはイギリスでカード決済が現金決済を上回り、その牽引役はコンタクトレス決済の増加であった。当時、コンタクトレス決済はイギリスのカード取引の約3分の1を占め、本人確認不要の上限額が20ポンドから30ポンドへ引き上げられたことで急増した[8]。
2018年、オーストラリアのウェストパック銀行は2017年の非接触決済利用統計を公表し、購入の90%以上がコンタクトレス決済で行われ「飽和点に近づいている」と報告。セント・ジョージ銀行も同期間で94.6%の利用率を報告した[要出典]。
2020年代
編集技術
編集EMV規格に準拠した非接触決済では、決済端末において主に以下3種類の方式が 標準的に採用されている。
EMVチップ
編集トークナイゼーション
編集スマートカード技術の新しい手法として、iPhone上のApple Payアプリのように、スマートカードをハードウェアデバイスに紐付け、当該デバイスがスマートカードに代わってカード発行者が生成したトークンを用いてRFID技術により決済端末との決済を行う方式があり、これをトークナイゼーションと呼ぶ。デバイスアカウント番号(Device Account Number、DAN)は、従来の磁気・ICカード決済における主アカウント番号(Primary Account Number、PAN)に相当する識別子であり、秘密鍵とともに生成され、ハードウェアデバイスへのスマートカード初期設定時にカード発行者へ送信される。決済時には、デバイス上の所定のアプリを介してDAN・有効期限・CVV等の情報が決済端末経由でカード発行者へ送られ、対応する秘密鍵による暗号処理によって取引が承認される。
NFC
編集主要な国際ブランド
編集コンタクトレス決済に準拠する各国際ブランドカードは、それぞれ独自のサービス名でコンタクトレス決済を提供している[10]。店頭・改札入場機等には、対応する国際ブランドのロゴとEMV Contactlessのシンボルが掲示される[注釈 2]。
- Visaのタッチ決済(旧Visa payWave)
- Mastercardコンタクトレス(旧Mastercard PayPass)
- JCBのタッチ決済 (JCB Contactless)
- American Express ExpressPay
- D-PAS (Diners Club、Discover)
- QuickPass (銀聯) [注釈 3]
各国・地域の普及状況
編集普及が進んだ国では、クレジットカード対面決済(少額)の大半が非接触決済で行われている[10]。世界の主要都市の公共交通機関でも、非接触決済による乗車方式の採用が始まっている(ロンドン、シンガポール、ニューヨーク、台北、シドニー、バンクーバー、ブリュッセル、ストックホルム等)。
欧米
編集欧米ではもともと治安や地理的条件から小切手決済が選好されており、非接触決済はその欠点を補う形でデビットカードやクレジットカード決済として普及し、安全性と処理速度を高める技術革新が進められた[11]。
アメリカ合衆国では2020年末までに3億枚の非接触対応カードが発行されると予測され、2019年末の予測1億枚から大幅な増加が見込まれた[要出典]。一方で、店舗でのモバイル非接触決済の利用率は限定的で、連邦準備制度理事会 (FRB) が2015年11月に実施した調査では、店頭でモバイル決済を利用すると回答した人の割合は5.3%にとどまっていた[12]。ドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)が2014年5月に実施した調査でも、ドイツで店頭でのモバイル決済利用率は2%にとどまっていた[12]。
オーストラリア
編集中国
編集韓国
編集新興国・途上国
編集日本
編集日本ではFeliCa方式 (後述) が長らく多数を占めていたが、非接触リーダーライター更新のタイミングでコンタクトレス決済対応機器を設置するケースが多く、大手のコンビニエンスストア・総合スーパーを皮切りに採用が進みつつある[注釈 4][注釈 5]。
セキュリティ
編集2006年、セキュリティ研究者により、非接触決済カードでは利用者の氏名・クレジットカード番号・有効期限が暗号化なしで送信される可能性があることが指摘された。研究者はカードが入った封筒を開けることなく、カードから漏洩した情報を用いてオンライン購入を行うことに成功した[13]。
非接触によるデビット・クレジット取引は従来と同じICカードを差し込み、暗証番号を入力する方式を利用し、同じ不正利用補償の対象となる。暗証番号対応カードでは、標準的なカードの差し込み、暗証番号入力が一度実行されるまでカードの非接触部分が機能しない仕組みになっている場合もあり、これにより実際の名義人にカードが渡ったことの一定の検証が可能となる[14]。
CVMリミット
編集コンタクトレス決済では、本人確認を必要とせずに決済可能な金額の上限(CVMリミット、Cardholder Verification Method limit)が国・地域ごとに定められている。一部のカードでは、規定回数を超えると暗証番号入力やサインが要求される仕様となっている[15]。COVID-19の流行を機に、各国でこの上限額の引き上げが相次いだ。
関連する決済方式
編集非接触型決済の周辺技術および隣接領域として、以下のものが存在する。
FeliCa
編集FeliCaは、ソニーが開発したNFC-F規格 (ISO/IEC 18092) の近距離無線通信方式である。日本ではEMV Contactlessに先駆けて普及し、交通系ICカード・電子マネーの主要な実装規格として広く利用されている。
日本における普及
編集日本でのFeliCa方式非接触決済の草分け的存在は楽天Edy(当時はビットワレットの「Edy」ブランドで開始)であり、2001年1月にサービスを開始した。同年、JR東日本が発行するSuicaも開始し、当初は首都圏、仙台周辺、新潟周辺だけでのサービスだったが、各地でも同様にICOCA等の交通系ICカードが誕生し、2007年3月にSuicaとPASMOの相互利用を開始[16]、2013年には交通系ICカード全国相互利用サービスにより全国で共通利用できるようになった。
非接触決済の異なる事業者間の相互利用化は、2007年1月のSuicaとiDの共通端末整備[17]や、同年4月のnanaco端末での他電子マネー利用開始[18]等で進められた。
ガラパゴス化
編集日本国内では非接触決済の通信プロトコルとしてFeliCaが採用されることが多いが、国際的にはFeliCaの普及度は低いため、ガラパゴス化しているという指摘がある(詳しくはガラパゴス化#非接触ICカードを参照)。2015年秋に東大の学生に行ったアンケートでは「おサイフケータイ」をまったく使わないと答えた者が96%だった。2016年にiPhoneにFeliCaが搭載されて以降も依然として、おサイフケータイは低調を維持している[19]。QR決済元年となった2019年には1年で利用率を抜かれている[20]。香港の八達通やシンガポール等、かつてFeliCaを採用していた地域でもEMV Contactlessへの転換が進んでいる[10]。
日本国内のFeliCa方式電子マネーの個別サービスについては電子マネーを参照。
モバイル決済
編集スマートフォンやウェアラブル端末を用いた決済の総称である。NFC機能を介してEMV ContactlessやFeliCaによる非接触決済を発動するモバイルウォレット(Apple Pay・Google Pay・Samsung Pay等)も含まれる。
日本における歴史的経緯
編集日本ではフィーチャーフォン時代からFeliCaを利用するモバイル決済が普及し、おサイフケータイとして広く利用されてきた。NTTドコモでは、902iSシリーズ以後のiモード端末でdカード(旧DCMX)のアプリが標準装備されており、dカードmini(旧DCMX mini)は簡易な審査の上で利用できたが、2019年2月26日21時にiモード端末でのdカード (iD)・dカードminiの提供を終了している[21]。後継世代であるガラホと呼ばれるAndroidベースのフィーチャーフォン類似端末にもFeliCaは継承され、楽天Edy等が標準装備されている。
IrDA赤外線通信を利用する決済方式も実験・トライアルが行われたが、いずれも実用化には至らなかった。KDDIのCDMA 1Xを利用する「Kei-Credit」のテストが2002年に、トライアルが2003年に行われた[22]。VisaのVISAッピも商用化試行段階まで進んだが、計画は中止された。Visaは携帯電話での非接触決済サービスとして、FeliCaを採用したVisa Touchを展開していたが、2014年6月末にモバイルサービスを終了し、コンタクトレス決済を採用したVisa payWave(現在のVisaのタッチ決済)を展開する方針へ移行した。
スマートフォン
編集脚注
編集注釈
編集出典
編集- ↑ 高橋隆雄『センサーの基本と仕組み』2011年、52-53頁。
- ↑ 『非接触型端末』 - コトバンク
- ↑ 『非接触型ICカード』 - コトバンク
- ↑ Lucia L.S. Siu (2008年6月). “Coercing Consensus: Unintended success of the Octopus electronic payment system” (英語). the 6th International Conference on Politics and Information Systems, Technologies and Applications (PISTA). 2026年6月7日閲覧。
- ↑ プールでもキャッシュレス買い物腕時計型プリペイドカード導入 - 安全と管理1996年9月号(日本実務出版)
- ↑ 関連ニュースダイジェスト プールサイドでピッ 日本経済新聞夕刊7・9 - アミューズメント産業1998年8月号
- ↑ Campbell, Francis (2015年6月2日). “Contactless payments taking off in the UK in 2015” (英語). mobiletransaction.org. 2026年6月7日閲覧。
- ↑ Jones, Rupert (2017年7月12日). “Cash no longer king as contactless payments soar in UK stores”. The Guardian (英語). 2026年6月7日閲覧.
- ↑ 『Apple、iPhoneのタッチ決済を日本で提供開始』(プレスリリース)Apple、2024年5月。2026年6月7日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 “コンタクトレス決済とは?世界各国での普及状況まとめ”. ピピッとチョイス. 2018年11月4日閲覧。
- ↑ 中田真佐男「我が国における小額決済手段のイノベーションの現状と課題 (村本孜教授退任記念号)」『成城大学社会イノベーション研究』第12巻第1号、成城大学社会イノベーション学会、2017年2月、323-352頁、ISSN 1880-6414、CRID 1050282677566271744。
- 1 2 3 4 “モバイル決済の現状と課題”. 日本銀行決済機構局. 2021年1月9日閲覧。
- ↑ Schwartz, John (2006年10月23日). “Researchers See Privacy Pitfalls in No-Swipe Credit Cards”. The New York Times (英語). 2026年6月7日閲覧.
- ↑ “Why doesn't my contactless card work?” (英語). Transport for London. 2026年6月7日閲覧。
- ↑ “Contactless Cards” (英語). Lloyds Bank. 2026年6月7日閲覧。
- ↑ 京浜急行電鉄|報道発表資料 - ウェイバックマシン(2008年3月9日アーカイブ分)
- ↑ 報道発表資料 : ケータイクレジット「iD」と「Suica電子マネー」の共通インフラを運用開始 - NTTドコモ
- ↑ 2007年春『 nanaco(ナナコ)』誕生!
- ↑ “QRコードの普及と「おサイフケータイ」の末路”. Newsweek日本版 (2018年2月8日). 2020年9月27日閲覧。
- ↑ “「QRコード決済」利用率は年初から約2倍、格安スマホで優勢に”. MONEYzine. 2020年9月27日閲覧。
- ↑ “iモードのdカード(iD)/dカード miniの提供終了のお知らせ”. 2020年5月18日閲覧。
- ↑ 『「Kei-Credit(ケイクレジット)」トライアルの試験機でのテスト開始について』(プレスリリース)。
- ↑ 『スマホアプリ「Coke ON」キャッシュレス決済機能「Coke ON Pay」を開始』(プレスリリース)。
関連項目
編集外部リンク
編集- EMV® Contactless Chip (EMVCo)
- JCBのタッチ決済(ジェーシービー)
- タッチ・スマホ決済 (American Express)
- 拡がっています、Visaのタッチ決済。 (Visa)
- Mastercardタッチ決済 (Mastercard)
- D-PAS (Discover)