二酸化ケイ素
二酸化ケイ素(にさんかけいそ、英語: silicon dioxide)は、化学式SiO2で表されるケイ素の酸化物で、地殻を形成する物質の一つとして重要である。シリカ(英語: silica[6])、無水ケイ酸、ケイ酸、酸化シリコンとも呼ばれる。純粋な二酸化ケイ素は無色透明であるが、自然界には不純物を含む有色のものも存在する。代表的なシリカ鉱物は石英(英語: quartz、水晶)であるが、それ以外にも圧力、温度の条件等の違いにより多様な結晶相(結晶多形)が生成され、自然界では長石類に次いで産出量が多い。マグマの粘性を左右する物質でもある。鉱物以外では植物 (イネ・スギナ・サトウキビなど) にも含有され、生体内にも微量ながら含まれている。
二酸化ケイ素の試料 | |
| 物質名 | |
|---|---|
Silicon dioxide | |
別名 石英、シリカ、無水ケイ酸 | |
| 識別情報 | |
| ECHA InfoCard | 100.028.678 |
| E番号 | E551 (pH調整剤、固化防止剤) |
| KEGG | |
日化辞番号 |
|
CompTox Dashboard (EPA) |
|
| 性質 | |
| SiO2 | |
| モル質量 | 60.1 g/mol |
| 外観 | 白色の粉末 |
| 密度 | 2.648 (α-石英), 2.196 (アモルファス) g·cm−3 [3] |
| 融点 | 1,713 °C (3,115 °F; 1,986 K) アモルファス[3](p4.88) |
| 沸点 | 2,950 °C (5,340 °F; 3,220 K)[3] |
| 0.012 g/100 mL ( °C) | |
| 磁化率 | −29.6·10−6 cm3/mol |
| 熱伝導率 | 12 (|| c-axis), 6.8 (⊥ c-axis), 1.4 (am.) W/(m⋅K)[3](p12.213) |
| 屈折率 (nD) | 1.544 (o), 1.553 (e)[3](p4.143) |
| 危険性 | |
| NFPA 704(ファイア・ダイアモンド) | |
| NIOSH(米国の健康曝露限度): | |
| TWA 20 mppcf (80 mg/m3/%SiO2) (amorphous)[4] | |
| TWA 6 mg/m3 (アモルファス)[4] Ca TWA 0.05 mg/m3[5] | |
| 3000 mg/m3 (アモルファス)[4] Ca [25 mg/m3 (クリストバライト, 鱗珪石); 50 mg/m3 (石英)][5] | |
性質
編集二酸化ケイ素は石英などの鉱物に代表される結晶性二酸化ケイ素と、シリカゲル・未焼成の珪藻土や生物中に存在する非結晶性(アモルファス)二酸化ケイ素の2つに大別される。結晶性二酸化ケイ素は共有結合結晶であり、ケイ素原子を中心とする正四面体構造が酸素原子を介して無数に連なる構造をしており、圧力や温度などの生成条件の違いにより様々な形(結晶多形)をとる。
結晶多形
編集二酸化ケイ素は温度や圧力をかけると結晶構造が変化する(相変態を起こす)。結晶構造などは次の一覧項で説明する。
- 温度を上昇させた時の相変化
- 常温常圧下ではα–石英が安定だが、二酸化ケイ素は温度変化によって相変化を起こす。
- 以下に示す温度は常圧での温度であり、溶剤や圧力等により変化する[7][8]。
- β–石英は高純度であればβ–トリディマイトを経由せずにβ–クリストバライトに直接相転移する[9]。
- 実際にはβ–石英を870℃以上に加熱しても、通常トリディマイトやクリストバライトに変化せず、準安定状態を保ったまま最終的に融解する[10]。これは相転移の活性化エネルギーが高いためである[注 1]。
- 上記の理由で工業的にもβ–石英の融解温度は転移温度以上に設定するが、1550℃など融点未満とすることが多い 。工業原料は粘土やアルカリといった不純物を含有し、これらが石英の融解を補助するためである。
- 温度を下げた時の相変化
- β–トリディマイトを急速に冷却すると、114℃でα-トリディマイトとなる。
- β–クリストバライトを急速に冷却すると、270℃でα-クリストバライトとなる。
- 圧力による相変化
自然界におけるシリカ
編集生物学上のシリカ
編集人体中のシリカ
編集結晶構造
編集| 相 | 結晶対称性 ピアソン記号, group No. |
密度, ρ g/cm3 |
注釈 | 構造 |
|---|---|---|---|---|
| α-石英 α-quartz |
三方晶系 hP9, P3121 No.152[28] |
2.648 | 鏡像異性体があり、それぞれ左右方向への3回らせん軸対称 573℃でβ-石英に変態 |
|
| β-石英 β-quartz |
六方晶系 hP18, P6222, No. 180[29] |
2.533 | 鏡像異性体があり、それぞれ左右方向への6回らせん軸対称 | |
| α-トリディマイト α-tridymite |
直方晶系・単斜晶系[10] oS24, C2221, No.20[30] |
2.265 | 常圧下で準安定状態 | |
| β-トリディマイト β-tridymite |
六方晶系 hP12, P63/mmc, No. 194[30] |
α-トリディマイトと相互に速やかに変態する β-トリディマイトは2010Kでβ-クリストバライトに変態する |
||
| α-クリストバライト α-cristobalite |
正方晶系 tP12, P41212, No. 92[31] |
2.334 | 常圧下で準安定状態 | |
| β-クリストバライト β-cristobalite |
立方晶系 cF104, Fd3m, No.227[32] |
α-クリストバライトと相互に速やかに変態する 1978 Kで溶融する |
||
| キータイト | 正方晶系 tP36, P41212, No. 92[33] |
3.011 | Si5O10, Si4O14, Si8O16 環 ガラス状シリカとアルカリから600-900Kおよび40-400MPaで合成 |
|
| モガン石 | 単斜晶系 mS46, C2/c, No.15[34] |
Si4O8 と Si6O12の環 | ||
| コーサイト | 単斜晶系 mS48, C2/c, No.15[35] |
2.911 | Si4O8 と Si8O16環 900 K と3–3.5 GPaで合成 |
|
| スティショバイト | 正方晶系 tP6, P42/mnm, No.136[36] |
4.287 | シリカの多形体のうち最も密度の高いものの一つ ルチル型構造 7.5–8.5 GPa |
|
| ザイフェルト石 | 直方晶系 oP, Pbcn[37] |
4.294 | シリカの多形体のうち最も密度の高いものの一つ 40 GPaで得られる[38] |
|
| メラノフログ石 | 立方晶系 (cP*, P4232, No.208)[39] または 正方晶系 (P42/nbc)[40] |
2.04 | Si5O10, Si6O12 環 包摂化合物[41](青色はキセノン) 高温相のβ-メラノフログ石がある |
|
| fibrous W-silica[42] |
直方晶系 oI12, Ibam, No.72[43] |
1.97 | 硫化ケイ素の様な鎖状 | |
| 英: 2D silica[44] | 六方晶系 | シート状の2次元構造 |
反応
編集利用
編集工業分野での利用
編集工業生産される二酸化ケイ素でも特に代表的なものはケイ酸をゲル化したシリカゲル(SiO2純度99.5%以上)であり、乾燥剤として食品や半導体の精密機械の保存から、消臭剤、農業肥料、建築用調湿剤などに使われる。電子材料基板やシリコンウェハーなどの研磨材などに使用されるコロイダルシリカや、耐熱器具、実験器具や光ファイバーの原料として用いられる珪砂、珪石などを溶融した後冷却し、ガラス化させた石英ガラス、樹脂の補強、研磨材、医薬品添加剤、増粘剤、農薬などの沈殿防止剤などに用いられるフュームドシリカ[45]、断熱材として用いられるシリカエアロゲルの他、エナメル、シリカセメント、陶磁器、タイヤの原料、液体クロマトグラフィー担体、電球やCRTディスプレイの表面などの表面処理剤、新聞紙の印刷インクの浸透防止など様々な分野において利用されている。陶器などの製造で石英が原材料として使用される[46]。タイヤの原料としては、沈降シリカがゴムに補強充填剤として配合される。電球に用いられる場合には、電球の内側に、眩しさを防ぎ光を拡散させる目的で塗料として塗られる[47]。
フェロシリコンの様な高温プロセスの副産物として得られるシリカヒュームはヒュームドシリカより純度が低いものの、セメントに混ぜるポゾランとして利用される。特殊な利用法として、戦車などの複合装甲として、セラミックの形で金属の間に挟んだものがある。
化粧品・医薬品への添加
編集食品添加物としての利用
編集食品添加物は吸着性を利用して、ビールや清酒、みりんなど醸造物、食用油、醤油、ソースなどの濾過工程、砂糖や缶詰などの製造工程で用いる。微粒二酸化ケイ素は吸湿・乾燥材としても使用される。とくにふりかけ等の粉形食品には、湿気による“ダマ”を防ぐ目的で添加されることがある。厚生労働省は告示で「母乳代替食品及び離乳食に使用してはならない」と使用基準を示している[50]。
食品添加物として利用される非結晶性の二酸化ケイ素は、体内で消化吸収されず、その大部分が便中に排出されるため身体に影響はないが、高濃度を長期摂取した場合は有害性が示唆されている[51][52]。人体には約1.8gの微量のケイ素が存在し、こうしたケイ素はケイ酸など水溶性の化合物として食物から吸収される。
機能性原料
編集埋蔵量
編集二酸化ケイ素(シリカ)は石英、珪砂、珪石などの形で産出する。天然の石英の資源量には限りがあるが、工業的には代わりに人工石英がもちいられる[57]。珪砂や珪石の資源量は非常に潤沢であり、工業用の純度の高いものも世界中に広く分布する[58]。
成熟した砂漠の砂にも多く含まれる。
日本国内で年間200万トン以上、世界では年間1億トン以上が排出されているが、これまで未利用資源として産業廃棄物として処理されていた現状がある。最近では、SDGsの観点・グリーンケミストリーの流れから、植物で最も多くシリカを含有する籾殻より効率的にシリカを抽出し、バイオ燃料・LED・サプリメント原料・スキンケア原料・ヘアケア原料として活用する研究もなされている。
危険性
編集結晶質シリカ
編集非晶質シリカ
編集シリカは体に有害な影響を及ぼすことがあり慢性腎臓病 (CKD) など引き起こすことが示唆されている。摂取量として100mg/L以上を長期的に摂取した場合、シリカの酸化ストレスにより持続的DNA損傷により細胞死(MTTアッセイ)を誘発する、一方で80mg/L以下では体の細胞内毒素クリアランス(除去)機能により除去されたことで毒性が予防される[51]。高濃度の長期摂取でシリカ結石を発症することが報告されており、三ケイ酸マグネシウムの数年間の長期服用や、10ヶ月の乳児が高濃度 (172 mg Si/L) の水で粉ミルクを飲んでいたことでシリカ結石を発症したことが報告されている[52]。
低濃度では人体へ有害な影響は無いと考えられ、2004年に欧州食品安全機関(EFSA)において、食品から摂取されるケイ素化合物(二酸化ケイ素及びケイ酸塩類)について、人に対して有害影響を及ぼさない上限値は算定できないとしつつも、ケイ素換算で一日1人(60 kg 体重)当たり20 - 50 mgの摂取ならばヒトに対して有害影響を示さないと結論付けている[52][63]。日本は、食品添加物として二酸化ケイ素を添加する場合、食品に対して2%以下とされ、母乳代用品及び離乳食への使用は禁止している[64]。
非晶質シリカの発がん性については発がん性に関する実験動物などヒトへの影響に関する証拠が不十分として、発がん性を分類できない「グループ3」に分類されている[61][65]。
非晶質シリカは人工的に合成されるケースが多いが、自然界由来であっても植物に含まれるシリカは非晶質である。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ↑ 国際化学物質安全性カード 二酸化ケイ素 ICSC番号:0808 (日本語版), 国立医薬品食品衛生研究所
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- ↑ European Food Safety Authority (EFSA) (2009). “Calcium silicate and silicon dioxide/silicic acid gel added for nutritional purposes to food supplements, Scientific opinion of the panel on food additives and nutrient sources added to food”. The EFSA Journal: 1132: 1-24.
- ↑ “評価書詳細 ケイ酸カルシウム”. 内閣府 食品安全委員会 (2014年8月29日). 2024年8月14日閲覧。
- ↑ “職場のあんぜんサイト”. 厚生労働省 (2016年3月31日). 2024年8月16日閲覧。
参考文献
編集- 黒田吉益、諏訪兼位「4.1 SiO2 鉱物 (Silica minerals)」『偏光顕微鏡と岩石鉱物 第2版』共立出版、1983年、66-72頁。ISBN 4-320-04578-5。
- 森本信男「10 シリカ鉱物」『造岩鉱物学』東京大学出版会、1989年、191-199頁。ISBN 4-13-062123-8。
- Kaufmann, Klaus, D.Sc. (1998). Silica: The Amazing Gel: An Essential Mineral for Radiant Health Recovery and Rejuvenation. Alive Books, New York, NY
- 木村修一・小林修平 翻訳監修 訳『最新栄養学〔第9版〕―専門領域の最新情報―』建帛社、2007年。
- 篠原也寸志、神山宣彦 (2001). “シリカの物理化学的性質と作業環境測定方法”. エアロゾル研究 16 (4): 269-274. doi:10.11203/jar.16.269.
関連項目
編集外部リンク
編集- ケイ素、ケイ素化合物 - 素材情報データベース - 「健康食品」の安全性・有効性情報

