アオノリ

食用として利用される数種類の海藻の総称

アオノリ(青海苔[1]、青のり)は、アオサ目アオサ科アオサ属に分類される緑藻のうち、管状の藻体をもつものの総称(図1)、またはこれに由来する食材のことである[1]。古くはアオノリ属学名: Enteromorpha)に分類されていたが、21世紀初頭にアオサ属(Ulva)にまとめられた。海岸汽水域に生育する海藻であり、スジアオノリウスバアオノリなど食用として利用される種を含む。養殖されており、多くは粉末にして利用されている。ミネラルビタミンに富み、香気が強い。

1. ボウアオノリ

アオサ(アオサ属のうち膜状の体をもつもの)やヒトエグサも、食材としては「アオノリ」や「青のり」とよばれることがあるが、以下では旧アオノリ属に分類されていた藻類について解説する。

分類

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2. ボウアオノリ

21世紀初頭までは、アオサ目アオサ科の藻類のうち、2層細胞層の膜状体の種はアオサ属Ulva)に、1細胞層で管状の種(図2)はアオノリ属(Enteronia)に分類されていた[2][3][4]。アオノリ属には、スジアオノリウスバアオノリヒラアオノリボウアオノリなどが分類されていた[2][3]

しかし、この意味でのアオサ属とアオノリ属には中間的なものも存在し、ウスバアオノリUlva linza)では基部が管状だが上部が膜状になっている[2][3][5]。さらに分子系統学的研究から、狭義のアオサ属(膜状になるもの)とアオノリ属は系統的に分けられないことが示され、両属は広義のアオサ属にまとめられた[6][7][8]

2025年時点では、上記の旧義のアオノリ属(現在はアオサ属に分類される種のうち管状の藻体をもつもの)を「アオノリ」とよぶが、アオサ(アオサ属に分類される種のうち膜状の藻体をもつもの)や系統的にやや異なるヒビミドロ目ヒトエグサも、しばしば「アオノリ」や「青のり」とよばれる[1][9][10][11]

人間との関わり用

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食用

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藻類/あおのり/素干し
100 gあたりの栄養価
エネルギー 1,035 kJ (247 kcal)
41 g
食物繊維 35.2 g
5.2 g
29.4 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(213%)
1700 µg
(185%)
20000 µg
チアミン (B1)
(80%)
0.92 mg
リボフラビン (B2)
(138%)
1.66 mg
ナイアシン (B3)
(42%)
6.3 mg
パントテン酸 (B5)
(11%)
0.57 mg
ビタミンB6
(38%)
0.5 mg
葉酸 (B9)
(68%)
270 µg
ビタミンB12
(1733%)
41.6 µg
ビタミンC
(75%)
62 mg
ビタミンE
(17%)
2.5 mg
ビタミンK
(3%)
3 µg
ミネラル
ナトリウム
(213%)
3200 mg
カリウム
(53%)
2500 mg
カルシウム
(75%)
750 mg
マグネシウム
(394%)
1400 mg
リン
(56%)
390 mg
鉄分
(592%)
77 mg
亜鉛
(17%)
1.6 mg
(29%)
0.58 mg
マンガン
(619%)
13 mg
セレン
(10%)
7 µg
他の成分
水分 6.5 g
ヨウ素 2700 µg
クロム 39 µg
モリブデン 18 µg
食塩相当量 8.1 g
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。
出典: 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年”. 文部科学省 (2023年). 2025年12月30日閲覧。

アオノリ(旧アオノリ属)は、おもに青のり粉とされ、お好み焼きたこ焼き焼きそばとろろみそ汁湯豆腐、めん類、精進料理煎餅などに利用される[12][13][1](図3a, b)。インスタント食品の薬味としても利用されている[13]。ただし、アオサやヒトエグサを同様に粉末として利用することもある[14][15]。また、佃煮とされることもある[12](ただしのりの佃煮の多くはヒトエグサを原料とする[14][11][10])。千葉県ではアオノリを板のりにし、正月に雑煮に入れる風習がある[13]韓国では、おもにキムチに利用される[16](図3c)。

3a. 磯辺揚げ
3b. 煎餅
3c. 青のりのキムチ

日本食品標準成分表(八訂)増補2023年』には「あおのり<青海苔>の素干し」(09002)が掲載されており、スジアオノリを主体としてウスバアオノリを混ぜたものとしている[11]。アオノリは、マグネシウムカルシウムビタミンAビタミンB12などに富んでいる[17][9][14](表)。アオノリは香気が強く、その主成分はジメチルスルフィドである[17][9][14]。『日本食品標準成分表(八訂)増補2023年』では、「あおさ(素干し)」や「ひとえぐさ(素干し、つくだ煮)」も別に掲載されている[11]

生産

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4. アオノリの養殖(レ島フランス

日本におけるアオノリ生産のほとんどは、養殖によるが、一部は天然のものが採集されている[12][17]。天然アオノリとしては、高知県四万十川産のスジアオノリがよく知られており、1960年代には年間収穫量30–50トンであったが、近年では10トン以下となっている(2012年時点)[17]。四万十川の天然アオノリはブランドイメージがあり、乾燥kg単価15,000–20,000円で買い取られる例もある[17][18]。日本で養殖されているアオノリのは、スジアオノリ、ウスバアオノリキヌイトアオノリヒラアオノリなどであり、このうちスジアオノリが味が良いとされ、生産量が最も多い[12][17][13]韓国でも、スジアオノリ、ウスバアオノリ、ヒラアオノリ、ボウアオノリが養殖されている[16][19]。2023年時点でのスジアオノリの生産地は千葉県三重県岡山県山口県徳島県香川県熊本県、ウスバアオノリの生産地は愛媛県、キヌイトアオノリの生産地は千葉県である[12]。特に徳島県のスジアオノリ生産量は多く、全国の7–8割を占めている[20]。アオサやヒトエグサを合わせ、日本におけるアオノリ等の生産額は9,500トン、生産額は57億円であった(2023年)[12]

日本におけるスジアオノリの養殖では、まず養殖用の網(ノリ網)に遊走子(鞭毛をもつ胞子)を付着させる(採苗)[21][13]。種場(たねば)とよばれる場所に網を張って自然に採苗する方法(天然採苗)と、スジアオノリを細かく刻んだものを水槽の海水中に2–3日置くことで放出される遊走子を付着させる方法(人工採苗)がある[21][13]。このような採苗した網(種網)を支柱張りまたは浮き流し方式で養殖漁場に設置し、スジアオノリを育成する[21][13]。日本で最も生産量が多い徳島県吉野川では、漁期は10–3月であり、2–3週間で長さ約 20–50 cm に成長し、収穫される[13]。摘採された網または新たな網を設置して生育適期の間は育成が繰り返される[13]。スジアオノリの成長適温は15–20°Cであるが、高温耐性がある株の選抜も行われている[21]。スジアオノリやウスバアオノリでは、陸上養殖が行われている例もある[12][22][23]

機械摘みや手摘みなどで網から摘採された原藻は真水で洗浄され、乾燥される。乾燥にはさまざまな方法があり、天日乾燥が最も単価が高くなるが、天候に左右される[21][13]。アオノリでは、板ノリにされる場合、板ノリとはせずに乾燥するバラノリにする場合、湿った状態の生ノリにする場合がある[12]。また、アマノリ(紅藻)に混ぜて板ノリとする場合もある(マゼノリ、混ぜノリとよばれる)[12][1]。また、抄いて板ノリとしたものは「抄きアオノリ」、そのまま縄にかけて乾かしたものは「掛けアオノリ」、乾燥品をさらにあぶって粉末状にしたものを「揉みアオノリ」ということがある[1]

日本においてアオノリ(旧アオノリ属)は自由に輸入できない輸入割り当て品目(IQ品目)に指定されており、2009年には同じくIQ品目であるヒトエグサと合わせて130トンの輸入が割り当てられていた[17]。現在アオノリと同属に分類される狭義のアオサ類(旧義のアオサ属)は自由に輸入できる自由化品目(AA品目)に指定されており、輸入されたアオサ・アオノリ類はDNA鑑定されている[17]

脚注

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出典

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  1. 1 2 3 4 5 6 アオノリ」『改訂新版 世界大百科事典』コトバンクより2025年12月30日閲覧
  2. 1 2 3 吉田忠生 (1998). “あおさ属”. 新日本海藻誌 日本海藻類総覧. 内田老鶴圃. pp. 31–42. ISBN 978-4753640492
  3. 1 2 3 田中次郎・中村庸夫 (2004). 日本の海藻: 基本284. 平凡社. pp. 12–18. ISBN 978-4582542370
  4. 名畑進一 (2005). “海藻アオサ類の分類と利用”. 北水試だより 69: 2-12.
  5. 神谷充伸 (2012). “ウスバアオノリ”. 海藻 ― 日本で見られる388種の生態写真+おしば標本. 誠文堂新光社. pp. 16–17. ISBN 978-4416812006
  6. Hayden, H. S., Blomster, J., Maggs, C. A., Silva, P. C., Stanhope, M. J. & Waaland, J. R. (2003). “Linnaeus was right all along: Ulva and Enteromorpha are not distinct genera”. European Journal of Phycology 38 (3): 277-294. doi:10.1080/1364253031000136321.
  7. Shimada, S., Hiraoka, M., Nabata, S., Iima, M. & Masuda, M. (2003). “Molecular phylogenetic analyses of the Japanese Ulva and Enteromorpha (Ulvales, Ulvophyceae), with special reference to the free-floating Ulva”. Phycological Research 51 (2): 99-108. doi:10.1046/j.1440-1835.2003.00296.x.
  8. 吉田忠生・吉永一男 (2010) 日本産海藻目録(2010年改訂版), 藻類 Jpn.J.Phycol. (Sorui) 58:69-122, 2010 Archived 2014年7月20日, at the Wayback Machine.
  9. 1 2 3 アオノリ」『日本大百科全書(ニッポニカ)』コトバンクより2025年12月30日閲覧
  10. 1 2 天野秀臣 (2018年). ヒトエグサの思い出”. 海苔増殖振興会. 2025年12月30日閲覧。
  11. 1 2 3 4 “9)藻類”. 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年. 文部科学省. (2023). pp. 202–208
  12. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 ノリ養殖をめぐる情勢について”. 水産庁 (2025年). 2025年12月30日閲覧。
  13. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 團昭紀 (2008). “スジアオノリの生理生態学的研究とその養殖技術への応用”. 徳島県立農林水産総合技術支援センター水産研究所研究報告 6: 1–10.
  14. 1 2 3 4 國𥔎直道 (1993). “緑藻類の科学”. In 大石圭一. 海藻の科学. 朝倉書店. pp. 37–45. ISBN 978-4254430349
  15. 「青のり」「あおさ」「あおさのり」の違いを知っていますか?”. 食宣伝 (2023年9月15日). 2025年12月30日閲覧。
  16. 1 2 高楠表 (1997). “韓国における海藻養殖の現状”. 水産増殖 45 (4): 565-571. doi:10.11233/aquaculturesci1953.45.565.
  17. 1 2 3 4 5 6 7 8 嶌田智 (2012). “アオサ、アオノリ、ヒトエグサ”. In 渡邉信 (監). 藻類ハンドブック. 株式会社エヌ・ティー・エス. pp. 564-567. ISBN 978-4864690027
  18. 清流通信340章 ご先祖さんに申し訳ない!老舗のり問屋の一大プロジェクトでアオノリ復活目指す 〜天然アオノリにも明るい兆し〜”. 四万十川財団 (2025年2月25日). 2026年1月10日閲覧。
  19. Hwang, E. K., & Park, C. S. (2020). “Seaweed cultivation and utilization of Korea”. Algae 35 (2): 107-121. doi:10.4490/algae.2020.35.5.15.
  20. とくしまのスジアオノリ”. プライドフィッシュ. 全国漁業協同組合連合会. 2026年1月2日閲覧。
  21. 1 2 3 4 5 生産量日本一スジアオノリ大研究”. Ourよしのがわ. 国土交通省 四国地方整備局 (2017年). 2025年12月30日閲覧。
  22. 佐藤陽一 (2023). “陸で海藻を育てる 三陸における周年生産の実現と脱炭素時代に向けた提案”. 化学と生物 61 (8): 363-370. doi:10.1271/kagakutoseibutsu.61.363.
  23. 「高級青のり、陸上養殖/スリーラインズ 月産100キロ体制に」日経MJ』2018年5月28日(フード面)2018年9月28日閲覧。

外部リンク

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