テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。 (集英社シリーズ・コモン)

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本の詳細

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本の概要

◆テック富豪が世界の「領主」に。
◆99%の私たちを不幸にする「身分制経済」
◆トランプ&イーロン・マスク体制を読み解くための必読書

グーグルやアップルなどの巨大テック企業が人々を支配する「テクノ封建制」が始まった!
彼らはデジタル空間の「領主」となり、「農奴」と化したユーザーから「レント(地代・使用料)」を搾り取るとともに、無償労働をさせて莫大な利益を収奪しているのだ。
このあまりにも不公平なシステムを打ち破る鍵はどこにあるのか?
異端の経済学者が社会の大転換を看破した、世界的ベストセラー。

【各界から絶賛の声、続々!】
米大統領就任式で、ずらりと並んでいたテック富豪たちの姿に「引っかかり」を感じた人はみんな読むべき。
――ブレイディみかこ氏

テクノロジーの発展がもたらす身分制社会。その恐ろしさを教えてくれる名著。
――佐藤優氏

これは冗談でも比喩でもない! 資本主義はすでに死に、私たちは皆、農奴になっていた!
――大澤真幸氏

私たちがプレイしている「世界ゲーム」の仕組みを、これほど明快に説明している本はない。
――山口周氏

世界はGAFAMの食い物にされる。これは21世紀の『資本論』だ。
――斎藤幸平氏

目次
第一章 ヘシオドスのぼやき
第二章 資本主義のメタモルフォーゼ
第三章 クラウド資本
第四章 クラウド領主の登場と利潤の終焉
第五章 ひとことで言い表すと?
第六章 新たな冷戦――テクノ封建制のグローバルなインパクト
第七章 テクノ封建制からの脱却
解説 日本はデジタル植民地になる(斎藤幸平)

著者略歴
ヤニス・バルファキス
経済学者。1961年アテネ生まれ。2015年のギリシャ経済危機の際に財務大臣に就任、EUから財政緊縮を迫られるなかで大幅な債務帳消しを主張し、世界的に話題となった。
現在はアテネ大学で経済学教授を務める。
主な著書にベストセラー『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』など。

斎藤幸平 (さいとう・こうへい)
経済思想家。東京大学大学院総合文化研究科准教授。1987年生まれ。主な著作に17言語に翻訳され、世界的ベストセラーとなった『人新世の「資本論」』など。

関美和 (せき・みわ)
英語翻訳者、ベンチャー・キャピタリスト。主な訳書に『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』(上杉周作との共訳)『ゼロ・トゥ・ワン』『誰が音楽をタダにした?』など。

著者について

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出版社より

米大統領就任 テック富豪 ブレイディみかこ スマホ 奴隷 斎藤幸平 各界が絶賛
テクノロジー 発展 身分制社会 恐ろしさ 名著 佐藤優 農奴 資本主義 大澤真幸 世界ゲーム 仕組み 明解 説明 山口周
テクノ封建制 クラウド領主 グーグル アップル 巨大テック企業 上納 クラウド封臣 従来型の大企業 クラウド・プロレタリアート クラウド農奴 監視 支配 ただ働き 過酷な労働
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内容紹介 なぜ世界経済は停滞し、どの国でも政治の不在を嘆く声が止まず、国家政策は機能していないのか――。 その理由は政策の世界で覇権を握っている主流派経済学の似非科学的なドグマにある。不確実性に満ちた世界で、とりわけ多中心性と複雑系によって特徴づけられる複合危機の時代において、社会の実在を無視した経済学に振りまわされた政策は毒でしかない。 そうした経済学の根源的・哲学的矛盾を衝き、新たな地平を切り拓くため、異能の官僚が批判的実在論を発展させた「公共政策の実在的理論」を展開する。 戦争、インフレ、気候変動。資本主義がもたらした環境危機や経済格差で「人新世」の複合危機が始まった。 国々も人々も、生存をかけて過剰に競争をし、そのせいでさらに分断が拡がっている。 崖っぷちの資本主義と民主主義。 この危機を乗り越えるには、破壊された「コモン」(共有財・公共財)を再生し、その管理に市民が参画していくなかで、「自治」の力を育てていくしかない。 『人新世の「資本論」』の斎藤幸平をはじめ、時代を背負う気鋭の論客や実務家が集結。 危機のさなかに、未来を拓く実践の書。 すでに不穏な兆しが漂うグローバル経済。それは一時の変調なのか。いや、そうではない。米国が主導してきた「秩序」、すなわちグローバル化した「世界の終わり」なのだ。無秩序の時代には、経済も政治も、文明そのものも野蛮化していく。しかも世界中で人口が減少し、高齢化していくなかで軌道修正も困難だ。そのなかで生き残っていく国々とは? 地政学ストラテジストが無慈悲な未来を豊富なデータともに仔細に描き、全米を激しく揺さぶった超話題作! すでに不穏な兆しが漂うグローバル経済。それは一時の変調なのか。いや、そうではない。米国が主導してきた「秩序」、すなわちグローバル化した「世界の終わり」なのだ。無秩序の時代には、経済も政治も、文明そのものも野蛮化していく。しかも世界中で人口が減少し、高齢化していくなかで軌道修正も困難だ。そのなかで生き残っていく国々とは? 地政学ストラテジストが無慈悲な未来を豊富なデータともに仔細に描き、全米を激しく揺さぶった超話題作! 男はどうして偉そうなのか。 なぜ男性ばかりが社会的地位を独占しているのか。 男が女性を支配する「家父長制」は、人類の始まりから続く不可避なものなのか。 これらの問いに答えるべく、著者は歴史をひもとき、世界各地を訪ねながら、さまざまな家父長制なき社会を掘り下げていく。 丹念な取材によって見えてきたものとは……。 抑圧の真の根源を探りながら、未来の変革と希望へと読者を誘う話題作。

商品情報

出版社 集英社
発売日 2025/2/26
言語 ‎日本語
本の長さ 320ページ
ISBN-10 4087370089
ISBN-13 978-4087370089
商品の重量 ‎350 g
寸法 13.1 x 2 x 18.8 cm
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    あたらしい封建制度の中で、いかに巧みに生きていくのかを探った書

    2025年7月6日に日本でレビュー済み
    フォーマット: Kindle版 (電子書籍)

    今の社会が一部のデジタル封建領主に支配されている事への懸念の書

    気になったところを抜き出すと、

    プロローグ

    「私の仮説とは?それは資本主義はすでに死んでいる、というものだ。つまり資本主義の力学がもはや経済を動かしてはいない、という意味だ。資本主義が担ってきた役割はまったく別のなにかに置き換えられている。その別のなにかを私は『テクノ封建制』と名づけた。私の仮説は最初はわけがわからないと思われそうだが、実はこの呼び名が今の状況にピタリと符合することをお示しできればと思っている。どういうことかと言うと、皮肉にも、資本主義を殺したのはーまさしく資本なのだ。といっても、産業革命の幕開けから私たちが馴染んできた資本ではなく、新しい形の資本のことだ。資本はこの二〇年で突然変異と言えるほど変容し、歯止めの利かなくなったウイルスのように、その宿主を殺してしまった。なぜこんなことになってしまったのだろう?主にふたつの出来事がそうさせた。ひとつはアメリカと中国の巨大テック企業によってインターネットが支配されるようになったこと。もうひとつは、二〇〇八年の金融危機に対する西側諸国の政府と中央銀行の対処の仕方だ」

    「この本はすでに資本主義に起きたことについて、すなわち私たちに起きてしまったことについて書いたものだ。私たちみんなが使っている、スクリーン越しにクラウドにつながったデバイス、つまりどこにでもあるラップトップやスマートフォンを通して私たちの身の上にすでに起きたことについての本であり、それと並行して二〇〇八年からずっと各国の中央銀行と政府が行ってきたことについての本である」

    「資本主義で媒介役を担っていた市場は、市場のように見えるが市場ではないデジタル取引プラットフォームに取って代わられた。そのプラットフォームは『封建領地』とでも呼んだほうが理解が進むだろう。そして資本主義のエンジンである利潤は、かつての封建制にも存在した、あるものに置き換えられた。それがレント[地代・小作料]だ。具体的に言うと、こうしたプラットフォームやクラウド[インターネット上のデータ保管場所]にアクセスするたに支払われれなければならない場所代のようなものだ。私はこれを『クラウド・レント』と呼んでいる」

    第一章 ヘシオドスのぼやき

    「史的唯物論とは、人間が物質を変容させる方法と、それに応じて人間の思考や社会関係が変容するあり方が互いに影響し合い、そのフィードバックが絶えず繰り返されるという歴史観である」

    「もしすべての自然が真逆の二面性を持つのなら、鋼鉄も、蒸気機関も、ネットワークにつながったコンピュータもまた、解放者であると同時に奴隷の支配者にもなり得る。そして、そのどちらになるかは、集団としての私たち次第なのだ。政治の役割はそこにある」

    「工場や病院で生み出されたものには、母さんの努力や熱意や工夫や直感が上乗せされている。そうしたものには報酬は与えられていない。それは映画館で映画を観るときに似ていた。映画の料金は交換価値だが、映画が与えてくれる喜びはそれとはまったく別のものだ。これがいわゆる『経験価値』というものだ。同じように、労働も『商品労働』(賃金によって買うことができる母の時間)と『経験労働』(母が仕事に注ぎ込む情熱や直感)に分かれている」

    「今この世界では、当たり前のように、労働はそのほかの商品と同じだと見なされている。人は食べていくため、業者が商品を宣伝するかのように自分のスキルを売り込む、労働者は市場が決めた値段(賃金)を受け入れる。その値段とは交換価値、つまりほかの取引可能な商品と比べてどのくらい価値があるか、という金額だ。これが商品労働だ」

    「学習障害を抱えた生徒が難しい数学の問題を解いたときの教師の喜びの涙。どれも商品化できるものではない。なぜかというと、お金では本当のひらめきの瞬間は買えないし、純粋な笑顔も、心からの涙も買えないからだ。むしろ、そういったものはお金で買おうとしたら、逃げていくだろう」

    「商品化できない従業員の汗、努力、ひらめき、善意、気遣い、そして涙こそが、雇用主が商品に吹き込んで顧客に届けたいと願う交換価値であり、それが建物やレストランや学校を望ましいものにする」

    「資本家は商品労働への対価(賃金)と、経験労働のおかげで生み出される商品の交換価値との差額を懐に入れている。言い換えると、労働の二面性が利益を生み出しているのだ」

    「『理論上においてさえ、労働者の賃金が、その労働者が生産したものの価値によって決まるわけではない。これを理解しておくことが重要だ』」

    「アインシュタインもまた、資本主義の核心が労働のふたつの相反する性質にあると信じていたのである」

    「物質とエネルギーはひとつになって運動し、空間の輪郭を形づくり、時間の流れをつくり出す。時間と空間、または物質とエネルギーを理解するには、それらをなによりも親密で、切っても切り離せない絆で結ばれたパートナーだと考えなければならない。重力とは、人がこの四次元の時空を最短距離で通過するときに感じるものだ」

    「マクロ経済では、貨幣の価格(金利)が下がっても、それが投資と雇用という形で貨幣のフローを促進するとは限らないからだ」

    「ケインズは貨幣が『モノ』であるという考えをやめさせようとしたのである」

    「もちろん貨幣はほかの商品と同じ、単なる『モノ』である。だが同時に、それよりももっと大きな存在でもある。なによりも、貨幣は人間同士の関係性を映し出すものであり、人間とテクノロジーの関係を映し出すもの、つまり物質を別の姿に変える手段であり、方法なのだ」

    「私の思想形成のもうひとつの重要な面について、父は少なくとも間接的に影響している。それは、自由を心から大切にしているのに資本主義を容認できる人たち(あるいはその逆で、非リベラルでありながら左翼的でいられる人たち)が、私には理解できないということだ」

    「資本主義は自由であり効率であり民主的であり、一方、社会主義は正義と平等と国家主義を目指すというものだ。そのような通説が間違っていると言えるのは、左翼が、そのはじまりからずっと人々の解放を目指してきたからである」

    「この農民追放が『囲い込み』と呼ばれる出来事で、農民は祖先が数世紀にわたって耕してきた土地から弾き出された。そして彼らの多くは農業が発明されたときに失ったものを手に入れた。『選択の自由』だ」

    「終わったのは政府が公共財を提供し、民間が人々の欲を叶えるのに十分なモノを生み出す、という混合経済の理想であり、資本の所有者と労働しか売るものがない人々とのあいだを政治が仲裁し、格差を生み出さず、搾取が行われないようにしっかりと均衡を取るという、洗練された資本主義という理想だった」

    第二章 資本主義のメタモルフォーゼ

    「今や人間は『テクノロジーが発達させた封建制』としか言いようがない。なにかによって支配されている。テクノ封建制は、資本主義に取って代わる存在として僕たちが期待していたものとは全然違うんだ」

    「一九六〇年代の大問題はベトナム戦争であり、公民権であり、公民権であり、資本主義を洗練させる可能性のあった制度の数々(メディケア『公的医療保険制度』)フードスタンプ『低所得者用の食料購入補助制度』、福祉国家など)だったけれど、ドレイパーは資本主義のDNAにおける本質的変異を捉えていた。人々が欲するものを効率よく製造するだけではもはや十分ではなく、欲望を上手に作り出すこと、それが資本主義の役目になっていた。資本主義は、かつて価格のなかったものに価格をつけるという容赦ない取り組みとしてはじまった。価格がなかったものに価格をつけるという容赦ない取り組みとしてはじまった。価格がなかったものとは共有地であり、労働力であり、以前なら家族が自分たちで使うために生み出さしていたものすべてーパンや自家製ワインやウールの上着や、さまざまな道具といったものーだ。人々が分かち合い享受しているものは、その中でも価格はないが、本質的価値または『経験的価値』ゆえに大切なものすべてをーたとえばおばあちゃん手作りのテーブルクロスも、美しい夕焼けも、魅惑的な歌もー大量生産商品へと変える方法を、資本主義は見出した。つまり、資本主義は経験価値を根こそぎ交換価値に従属させる方法を編み出したのだった」

    「カネで直接買えない経験労働から資本が生み出されるのだ」

    「確かに資本主義は触れるものすべてを商品に変えてしまう。だが同時に、商品化されないものこそ交換価値が高く、したがって大きな利益は、それを完全には商品化しないことで得られる。捕食者が獲物を残らず食い漁ったせいで餓死してしまうような事態を避けるために、資本主義は交換価値が貪り食う経験価値が無限に供給されることを前提としているのだ。資本主義は常に商品化から逃れてきたなにかを発見し、それを商品化しなければならない」

    「テクノストラクチャーの台頭はアメリカの資本主義を『分散型の市場社会』から『市場もある中央集権型の経済』へと変貌させてしまった。その姿は、ソ連の計画者たちが長いあいだ願っていても果たせなかった夢そのものだった。なんとも皮肉なことだ。一九六〇年代を通してアメリカとソ連は政治思想でも核をめぐっても衝突し、世界は吹っ飛びそうになっていた。それなのに、ソ連の計画経済の原則は、なんとアメリカで大成功を収めたのだ。これほど効果的なイデオロギーの復讐は珍しい」

    「ブレトンウッズ体制は大胆な金融プロジェクトだった。日欧の通貨と米ドルの交換比率を固定することで、欧州通貨と円を『ドル化』するというものだ(その固定相場があったからこそ、一ドル=三〇ドラクマの固定レートが一九七五年に崩壊したときに、父さんはショックを受けたというわけだ)。つまりこれは米ドルを基軸とするグローバルな通貨同盟だった。強力なアメリカ経済が体制を支えている限り、各国通貨は高い価値を安定的に維持できるはずだった」

    「この大胆な金融プロジェクトには政治プロジェクトがともなっていた。東洋ではニューディール派が日本の憲法を書き換え、日本風の味つけでテクノストラクチャーへの体制転換を監督した」

    「三つの出来事によって貿易黒字が失われ、アメリカは慢性的な赤字に陥った。まずベトナム戦争が激化し、アメリカ政府は東南アジアで軍事用の物資サービスに数十億ドルを費やすことを余儀なくされた。次にリンドン・ジョンソン大統領は徴兵がアメリカの労働者階級、特にアフリカ系アメリカ人のコミュニティへ及ぼした悪影響を償おうとした。ジョンソン大統領が推し進めた『偉大な社会』政策は、勇敢な試みだったが高くついた。貧困は激減したものの、一度に大量のヨーロッパ製品や日本製品がアメリカに流れ込んだ。ついには日本とドイツの製造業が質量ともにアメリカを追い抜いた。その一因は、歴代のアメリカ政府が日本とドイツの製造業を支えてきたことにあった(自動車産業はその好例だ)」

    「ドルだけが、その特権的な地位から安全な通貨になった。というのも、もしフランスや日本やインドネシアの会社が、いや実際にはだれもが、石油や銅や鉄鋼やただの船荷のスペースさえも、確保しようと思ったらドルで支払うしかなかったからだ。そんなわけで、アメリカからモノを買う必要はなくても、世界中から求められる通貨を保有する唯一の国がアメリカということになった。だからこそヨーロッパと日本の経済の未来に暗雲が立ち込めると、金融業界は大騒ぎして貯蓄をドルに換金し続けた」

    「だが、ドルの覇権が強まったのにはもうひとつ要因がある。それはアメリカの労働者階級を意図的に貧困化させたことだ。皮肉屋ならば、利潤率の高い場所に大量の資金が集まる、と正確に指摘するだろう。ウォール街が魔法の力をフル活用して海外資本をアメリカに引き寄せるには、アメリカの利潤率がドイツや日本に追いつかなければならない。手っ取り早くそうしたければ、アメリカ人の賃金を抑えるのが一番だ。労働力が安くなれば製品コストが下がり、利潤率は上がる。アメリカの労働者階級の平均所得が現在でも一九七四年の水準を下回っているのは、偶然ではない」

    「戦争は若者の溜まった不満に火をつけたが、もともとの原因は戦争ではない。ではなぜ、六〇年代の半ばから終わりにかけて、アメリカとヨーロッパの若者は立ち上がったのだろう?完全雇用が実現され、格差は急激に減少し、公立大学が設立されて福祉国家が広がっていたあの時代になぜ?」

    「『もっともっとと欲張ってしまうことが、人間の欠陥なんだ。欲しいものを手に入れてもまだ欲しがるから、人間はダメになる』」

    「大量生産された欲望が満たされれば満たされるほど、満足感は薄れていく、テクノストラクチャーが人々の情熱を掻き立てれば搔き立てるほど、心にあいた穴は大きくなる。その心の穴を埋めようと、若者は古い秩序を壊し、明確な大義もなく反抗し、テクノストラクチャーのやり方が倫理にもとると大声で唱えた」

    「最後にグローバル計画を解体させたのは、左派のヒッピーでもなければ右派のリバタリアンでもなかった。テクノストラクチャーにつかえてきた官僚たちの仕業だった。ニューディール派で、一九七一年のニクソン・ショックの中心にいた張本人が言っていたのだから間違いない。その人物とは一九七九年から一九八七年まで、アメリカの中央銀行制度を統括する連邦準備制度理事会(FRB)議長を務めたポール・ボルカーだ。ボルカーは一九七八年にウォーリック大学で講演し、自分たちが置かれている状況を皮肉を交えてずばりと表現した。『世界経済を計画的に解体することが、一九八〇年代の真っ当な目標だ』」

    「そんなわけで、二○○七年には人類の総収入の一〇倍以上の金額を金融業界は賭けに投じるようになっていた。この狂乱を支える侍女となったのは、アメリカのミノタウロスにとめどなく流れ込んできた莫大な資金、コンピュータが生み出す複雑な金融デリバティブ商品、そして市場は万能だとする新自由主義的な信念の三つである」

    「テクノロジーの革新が社会システムの中で進むと、突然システム自体がまったく異なるものへと姿を変えてしまう」

    「資本主義が変異して最終的に行き着いた姿を、私は『テクノ封建制』と呼んでいる」

    第三章 クラウド資本

    「資本主義が生まれる前には、資本は簡単に定義できるものだった。ほかのモノを生産するという目的に特化してつくられた。物理的なモノが資本とされた」

    「資本の隠れた力、すなわち命令する力は世界の形を変えてきた。二○○年前の資本主義のはじまりから、戦後のテクノストラクチャーの台頭とグローバル・ミノタウロスの誕生を経て、二○○八年の金融危機に至るまで。しかしながら今日、前例のないほどに命令する力を持つ新しいタイプの資本の台頭を私たちは目撃している。それは、資本主義と名づけられたシステムそのものを考え直させるタイプのものだ。私はこれを『クラウド資本』と呼んでいる」

    「ライバルのAI機器同士が団結する気味の悪い様子を見て、普段は考えない疑問が急に湧いてきた。アレクサのようなデバイスの本質はなんだろう?実際、なにができるんだ?アレクサに聞けば、自分は自宅用のバーチャル・アシスタント・テクノロジーで、どんな命令でも伺いますと答えるだろう。電気をつけることも、牛乳を注文することも、メモを取ることも、インターネットで検索することも、冗談を言うこともできる。要するに、なんでも言うことを聞いてくれる。個人専用の熱心な機械製召し使いだ。それは正しい。だが、アレクサがその正体を明かすことは絶対にない。アレクサは、巨大なクラウド上にある権力のネットワークの中の歯車の歯で、その中で私たち個々人は接続点(ノード)のひとつ、デジタルな塵のひとかけらにすぎず、せいぜい権力のおもちゃといったところだ。私たちの理解もコントロールも超えているが」

    「この無限ループ、または無限回帰によって、アレクサとその背後のクラウドに隠れた巨大なアルゴリズムのネットワークは、アルゴリズムの所有者が儲かるように私たちの行動を変えることができる。私たちの欲望をつくり出す、または少なくとも編集するアレクサの力を自動化したことで、アルゴリズムの所有者は私たちの行動を操作する魔法の杖を持つことになった。それは大昔からすべてのマーケターが夢見てきた力だ。これこそが、アルゴリズムによるクラウドベースの支配・命令する資本の本質だ」

    「パンドラは、ゼウスがヘイパトスに命じてつくらせた創造物で、人間に代わって神々から火を盗んだプロメテウスの罪を理由として、人間を罰するために遣わされた。そうした神話や映画やテレビ番組が描くのは、いわゆるシンギュラリティ(機械や、つながり合った機械の群れが意思を持つ瞬間)だ。その瞬間、機械は私たちー創造主ーをじっくりと観察し、私たち人間に価値がないと思えば根絶やしにしたり、奴隷にしたり、ただ悲惨な目に遭わせたりする」

    「アレクサやほかのデバイスにも同じことが言える。あれが意思もないのに知性を真似るだけのデータ処理網のおまけみたいなものだとしても、その点はどうでもいい。あのデバイスをつくった人たちの目的が単なる好奇心や利潤の追求であって、人類を意のままに操ろうとする非道な計画でないかどうかも問題ではない。重要なのは、あの機械が私たちの行動に対して、思いもよらないほど大きな力を行使しているということだ。しかも、ほんのひと握りの人間のためにその力が使われているのだ。これもまた、ある意味でシンギュラリティと言えるのではないだろうか。つまり、私たちが発明したなにかが独り立ちして、私たちよりも力を持ち、私たちを支配するようになるという、よりシンプルな意味でのシンギュラリティではないのか」

    「インターネットが資本主義に及ぼす影響を見極めるには、まずインターネットと資本主義との変わりゆく関係性を理解する必要がある。インターネットのはじまりの頃には、資本主義はなんの関係もなかったのだ!」

    「アメリカのグローバル計画が死に、グローバル・ミノタウロスが生まれつつあった一九七〇年代には、この奇跡的なデジタル・コモンズの土台となる要素はすべて出来上がっていた」

    「一九八〇年代初頭に提供されるようになったデリバティブは、あまりに複雑なアルゴリズムの上に成り立っていたため、商品の作り手でさえも中身がまったく理解できないほどだった」

    「二一世紀に奪われたのは、自分のアイデンティティへのアクセスだ」

    「人間味のない人物でさえも感じる一抹の罪悪感などとは無縁のアルゴリズム上司は、勝手に労働者の賃金労働時間を減らし、正気レベルまで仕事のペースを上げ、それについてこられないと『非効率』を理由に労働者を路上に放り出す」

    「クラウド資本に蓄積された最も価値のある部分は、物理的なものではなく、フェイスブックに投稿されたストーリーであり、TikTokやユーチューブにアップロードされた動画であり、インスタグラムの写真であり、ツイッターのジョークや悪口であり、アマゾンのレビューであり、私たちの位置情報だ(グーグルマップで最新の情報もわかるが)」

    「ここが肝心なところだ。デジタル革命は、賃金労働をクラウド・プロレタリアートに変えようとしているのかもしれない。そしてクラウド・プロレタリアートは目に見えないアルゴリズム上司の圧力のもとで、ますます不安定でストレスに満ちた生活を送るようになる」

    「以前は、資本の持つ支配力を行使し、人間をより速く働かせ、より多くを消費させるには、資本家には二種類の人材が必要だった。マネジャーとマーケターだ。戦後のテクノストラクチャーの庇護のもとで、このふたつの職種は銀行家や保険ブローカーにもまして目立った存在になっていった。経営大学院が新設され、MBAの学生を輩出し、彼らはそこで学んだスキルで労働者の尻を叩いて労働生産性を爆発的に引き上げた。広告とマーケティング部門では、ドン・ドレイパーのような世代が育っていった。そしてクラウド資本が登場した。クラウド資本は一気にその両方の役割を自動化した。労働者と消費者を意のままに動かす資本の力を行使するのは、アルゴリズムだ。これは労働者を産業ロボットに置き換えるよりもはるかに革命的な一歩だ」

    「歴史上これまでになかった本物の破壊とは、工場や店舗やオフィスの外にいる人たちへの命令する力の自動化である」

    「資本主義市場を壊したのは、資本だったのだ!資本が勝利の祝杯を上げているあいだに、資本主義そのものは消えかけているのだ」

    第四章 クラウド領主の登場と利潤の終焉

    「コロナ禍が広がりを見せるにつれ、大西洋の両岸の当局は、そして日本でもそのほかの国でも、二○○八年にアメリカのミノタウロスが死んで以来やり続けていたことを、さらに大きなスケールで行うことで対応した。つまり、紙幣を発行して金融機関に渡すことで、事業投資が増え、雇用が安定し、経済が崩壊しないことを期待したのだ。だがその期待は裏切られた。平均的な事業者が返済できないことを恐れた金融屋は、中央銀行から受け取ったカネを大企業にしか貸し出さなかった。大企業はそのカネを投資に回さず、投資したとしてもクラウド資本にしかまわさなかった」

    「クラウド資本は人々の関心を惹きつけ、欲望をつくり出し、(クラウド・プロレタリアートによるプロレタリア労働の原動力になり、(クラウド農奴による)大規模な無償の労働を引き出し、買い手と売り手のどちらにも普通の市場には存在する選択肢がないような、完全に営利企業に支配されたデジタル取引空間(アマゾン・ドットコムのようなクラウド封土)をつくり出した」

    「それはクーデター以外のなにものでもない。世界で最も金持ちの資本主義国家にカネを発行させ、それを使って新しい形態の資本金を築くなんてことを想像してほしい。そしてこの新しいタイプの資本金には超能力が備わっていて、数十億の人間があなたの代わりにタダでその資本金の再生産をしてくれると考えてほしい。そのうえ、この新手の資本は国家のお金によって支えられ、市民のタダ働きによって再生産され、景気が悪くなってますます減っていく賃金でも働き続けるプロレタリアートから、ありったけの剰余価値を引き出す力を強めている。しかも、その新手の資本のせいで、これまでの資本家は従来の市場から商品を引き払い、クラウド資本を通して売るしかなくなったのだ。もほや銀行で愛想笑いをする必要すらない。なぜなら、途方もない利潤は哀れな銀行家の口座に入れるより、クラウド資本帝国のデジタル・ウォレットの中にしまっておくほうがはるかに賢いからだ」

    「中央銀行がこれでもかとお金を流通させはじめたのは、西側諸国の金融セクターが一斉に破綻した直後の二○○八年からだ。当時の政治家と中央銀行は、一九二九年にハーバート・フーバー政権がやってしまったように銀行を破綻させ、人々の預金を消失させれば、第二の世界恐慌になると心配したのだ」

    「最悪なことはに、中央銀行は銀行家に対して社会主義を適用して救済した一方で、労働者と中流階級に悪しき緊縮財政を押しつけた。大不況の真っ只中で公共支出を削るなんて、いつの時代でもとんでもないことだ。しかも支出を削りながら、同時に金融機関には大量のカネをばらまくなど、愚の骨頂と言ってもいい。この破廉恥なダブル・スタンダードは、多くの人々に政治不信を植えつけたばかりか、経済に致命的な打撃を与えた」

    「二○○八年の金融危機でまず投資が打撃を受け、緊縮財政がそこにとどめを刺したあとに、金融機関にいくら資金を注ぎ込んだところで投資がまったく回復しないのは、わかりきっていた。緊縮財政によって人々の収入が減っている時期の資本家の立場になって考えてみるといい。どう使ってもいいお金をタダで、つまりゼロ金利で一〇億ドルを与えられたとしよう。もちろん、その一〇億ドルは受け取るが、さっきも言ったように新しい生産設備に投資することなどあり得ない。ではそのタダのお金をどう使う?不動産や芸術作品を買ってもいいし、自社株を買えばもっといい。自社の株価が上がれば、経営者であるCEOなら立場も強まり、株価連動のボーナスも増える。新規の投資をしないことで、権力者はさらに大きな力を得ることになる」

    「インフレになった場合に、あるひとつのモノの価格が上昇するのは、あらゆるモノの価格が上昇しているからだ。パン屋だけの問題ではない。パン、コーヒー、スマートフォンを買うために、ドルなり円なりユーロなり、だれしもがより多くの貨幣を必要とするようになるのだ。このようにして、インフレは貨幣の交換価値を奪う」

    「大企業の借入意欲が全体の貨幣需要を左右するわけだ。理論的には、中央銀行は市中銀行への政策金利を調整することで貸出金利に影響を与えることになっている。金利の調整によって、投資を刺激することも抑制することもできる。しかし、全体的な金利は、他のモノの市場と同様に貨幣の供給と需要によって決まる」

    「それは奇妙な新世界だった。商品にならない腐ったモノや有害なモノなら、マイナスの価格がつくのはわかる。工場が有害廃棄物を処分したいときには、お金を払って引き取ってもらう。特に、環境に配慮した形で処理しようと思えば、かなりの費用がかかる。だが、貨幣が腐っていて処理しなければならないなんてことがあり得るのだろうか?まるで自動車メーカーが使用済みの硫酸を扱うように、または原子力発電所が放射性廃液を扱うように、中央銀行が貨幣を扱うのだとしたら、金融資本主義の王国でなにかが腐っているとしか思えない」

    「それでも、利潤はすべての資本家の野心であり、事業者の目標であり、より居心地のいい生活を願って格闘する人々の夢であり続けた。だが、資本の蓄積、つまり市場や経済全体の規模を大きくすることによって富を創造する過程が、利潤から切り離されたのだ。ブレトンウッズ体制の終焉とその後のミノタウロスの台頭によって、勤勉さと生活水準の向上が切りはなされたときと同じように。もちろん中央銀行は利潤の役割に取って代わろうなどというつもりもなかった。ただ自分たちがつくり出した罠に落ちただけだ」

    「アメリカの連邦準備制度やイングランド銀行といった資本主義の守り神が、新な形のクラウド資本を供給し、クラウド資本が今では市場を破壊し、国家のアルゴリズムは市場や政府や、おそらくその創造者たちですら制御できないところに存在しているアダム・スミスが頭から湯気を出す姿が目に浮かぶようだ」

    政治家もクラウド資本が民主政治を棄損するなどとは思っていなかった。かつて資本主義が、王や司祭や農民を含むすべての人の意思に背いて生まれたように、クラウド領主mp昔ながらの権力者を含む大部分の人たちの目に触れないところで台頭した」

    第五章 ひとことで言い表すと?

    「明らかなファシスト体制を『ファシスト』と呼ばないことと、いくらえげつなくともファシストではない体制をファシストとよばないことは、まったく違う」

    「インターネット・コモンズの『囲い込み』によってクラウド資本が生まれ、それがほかの種類の資本と違ってコストのかからない自己再生能力を持ち、人々のみんなをクラウド農奴に変えてしまうことを、私たちは見てきた。オンラインへの転換によって、アマゾンはクラウド封土として運営され、従来の企業はジェフ・ペゾスの封臣として仕えるために彼にカネを払っていることも目の当たりにしてきた」

    「資本主義はフランケンシュタイン博士のように、間接的に自分の手で死ぬ。つまり、自分が生み出した最高の創造物の手にかけられて死を迎えるだろう、と」

    「封建制のもとでの地代(レント)は、簡単に理解できた。出生時の幸運や王令によって土地の権利証を与えられた封建領主は、その土地で生まれ育った農民が耕作する収穫の一部を手に入れる権限を与えられた。資本主義のもとでは、レントの意味を理解して利潤と区別するのははるかに難しい。私は大学で教えているときに、学生たちにこのふたつの違いを理解させるのに苦労した」

    「こうした巨大連と企業に共通するのは、なにがなんでもレントを正当化したいがために、それを利潤と見せかけることだ。レント・ロンダリングと言ってもいい」

    「スティーブ・ジョブスがクラウド・レントという宝箱を開けるきっかけとなった天才的なひらめきとは、社外の『サードパーティー開発者』にアップルのソフトウェアを無料で使わせ、開発したアプリケーションをアップルストアで販売するという斬新なアイデアだった、これによって、たちまちタダ働きの労働者と封臣資本家が生み出され、彼らの働きによって、アップルのエンジニアだけでは到底つくり出すことのできない多種多様なアプリが、ihoneユーザーのためだけに提供されるようになった」

    「アンドロイドはソニー、ブラックベリー、ノキアなどのメーカーが自社開発したOSや、自社開発できたはずのOSと比べて、優れていたわけでも劣っていたわけでもない。だがアンドロイドは超能力を備えて登場した。グーグルが有り余るほど持つクラウド資本だ。それが、ソニーやブラックベリーやノキアには決して引きつけられないサードパーティ開発者を磁石のように引きつけた」

    「アマゾンがクラウド封土の中で物理的な製品メーカーの上前をはねているあいだに、一方で、ほかのクラウド領主たちはプレカリアート〔非正規雇用者や零細自営業者〕に長目していた。グローバル・ノースではウーバー、リフト、グラブハブ、ドアダッシュ、インスタカートといった企業が、そしてアジアやアフリカではそれらを真似た同様のサービスが、莫大な人数の運転手、配達員、清掃員、レストラン経営者や犬の散歩代行をする人までをクラウド領土に引き込んで、給与所得ではない、出来高払いの労働者の稼ぎから一定額をせしめていた。これもクラウド・レントだ」

    「全体を俯瞰すれば、世界経済を回しているのが利潤ではなくクラウド・レントになりつつあるのは明らかだ。そこに私たちの時代の面白い矛盾が見えてくる。資本家の活動は積極的な資本蓄積のプロセスの中で広がっていく、だが、その同じプロセスが資本家の利潤を損ない、資本主義市場をクラウド封土に置き換えている。要するに、資本家の活発な活動が結果的に資本主義の衰退につながっているのだ。資本家の活動を通してテクノ封建制が生まれ、それが支配的な力になりつつある。むしろ、それが当然の帰結なのかもしれない」

    「労働者は少なくとも自分たちが支払う生活費の上昇分くらいは補える程度に、できる限りの賃上げを要求する。政府もまたそのゲームの参加者だ。収入増加と物価上昇によって増えた所得税や消費税を使って、インフレで生活に困窮する弱者を助けるか?それともエネルギー価格の高騰に苦しむ大企業をほじょするか?あるいはなにもしないか?これらの問いに答えが出るまで、ずっとインフレは続く」

    「評論家の立場からすると、インフレを生き延びる上で私たちが気にかけるべきは、エネルギーと食料価格の関係、ウクライナ戦争、アメリカによるさまざまな国への経済制裁、米中間の冷戦の可能性を見据えた製造業の国内回帰、人口の高齢化、厳格化する移民政策といったあたりのことだ。言い換えると、いつも通りのことを考えようというわけだ。左翼の多くもまた大インフレに安堵していた。インフレで貧しい人々が困窮するのは嫌だが、世の中が正常に戻ったという感覚は喜ばしいのだ。金利がゼロを超えて再び上昇すれば、メタやテスラやアマゾンの時価総額は減少し、昔ながらの適役としてお馴染みの古き資本主義体制が復活する」

    第六章 新たな冷戦―テクノ封建制のグローバルなインパクト

    「クラウド資本が伝統的な資本を支配する中、アメリカの覇権を維持するには、外国資本によるボーイングやGEの買収を防ぐだけでは済まない。クラウド資本は国境を越えてグローバルに展開しており、どこからでもクラウド・レントを徴収することができる。そんな世界で自国の覇権を維持するには、それを脅かす存在として台頭してきた唯一のクラウド領主階級と直接対決するしかない。つまり敵は中国のクラウド領主だ」

    「真の覇権は力によってではなく、ファウストが悪魔と交わしたような断ろうとも断りきれない魅力的な取引を提案するこでもたらされる。そんな提案のひとつが、いわゆる「ダーク・ディール[暗黒の取引]」だ。新冷戦以前の米中経済関係の背後にあったのがこのダークディールだと、とある中国高官は言っていた。核にあったのは、アメリカの支配階級が中国の支配階級に差し出した暗黙の提案で、それはミノタウロスが差し出したものと同じだ。アメリカは貿易赤字を被っても中国製品への需要を旺盛に保ち続ける。工業生産拠点も中国に移す。その見返りとして、中国で上がる利潤をアメリカの金融、保険、不動産[Finance, Insurance, Real Estate] いわゆるFIREに自発的に投資してくれ、というものだ」

    「ウォール街の底が抜けたとき、中国国内投資を総所得の半分を超えるほどまで増やしたおかげでグローバル資本主義は安定を取り戻した。西側諸国の緊縮財政によって引き起こされたグローバルな景気変動の溝の多くを、中国の投資が埋めてくれたのだ。中国の国際的な存在感は高まり、中国のドル黒字は蓄積し、ウォール街に資金を還流させ、アフリカやアジアにも多額の投資を行ったばかりか、かの有名な『一帯一路』構想を通して、ヨーロッパにも投資した(この輝かしい新たな役割はもちろん代償をともなった。中国の労働者の取り分を減らさなければ投資額をこれほどまでに上げることはできず、一方で中国のFIRE業界を支配するレント階級はとんでもない大金持ちになった具体的には、投資の増加はちゅうごくの地方政府が不動産開発業者に提供した土地を担保にした融資によって支えられていた。だから二○○八年以降に投資が増加すると、中国じゅうの住宅価格と地価のインフレが進行した)」

    「トランプが中国にしようとしていることは、レーガンが一九八五年に日本にしたことと、ある意味で同じだ。いわゆるプラザ合意のもとで日本は円の大幅な切り上げを強いられ、日本の輸出企業はアメリカ向けの販売による利益を制限され、より広義には対米貿易黒字を減らすことになった。日本政府はそれに黙っておとなしくしたがい、それから

    日本の資本主義は永遠に後退して、本当の意味で二度とかいふくできなかった。中国は日本と違う反応をしめすのだろうか?」

    「中国においてダーク・ディールを蝕んでいるのはクラウド領主だけではない。二〇二〇年八月一四日、中国人民銀行の内部で革命が起きた。六年にもわたる詳細な調査を経て、中国人民銀行はデジタル人民元の発行に着手した。それは実験的な形であれど、真剣な意図を持った試みだった。世界ではじめて、国家が完全なデジタル・マネーを発行したのだ」

    「グローバル・サウスは過酷な選択を迫られている。ドル建て債券の不履行を選択すれば、今後は燃料や食料や原材料を購入できず、国民を食べさせることも、工場を運営することも、畑を耕すこともできなくなる。一方で、たとえばIMFからドルを借り入れて既存のドル建ての債務を返済するふりをすれば、ふたつの地獄のような条件が課せられる。まず、生活に欠かせない水や電力といったエッセンシャルな事業の権利を、『投資家』の皮をかぶった寡占企業に渡さなければならなくなる。次に、国内の燃料と食料の価格をつり上げることを迫られる。そして人々は飢えに苦しみ、生きていけなくなる。いずれにせよ、いわゆる発展途上国は過小発展の力学に屈服することを強いられる」

    「だからこそ、特に若い人たちには私のこの懸念を伝えたい。クラウド領主階級の力が強まれば強まるほど、テクノ封建制がますます進み、私たち民衆は気候災害に対して手を打てなくなる。『未来のためのストライキ』の前線にいる若者たちには、地球温暖化を食い止めるためには、同時にテクノ封建制に対抗しなければならないことをわかってほしい」

    「太平洋の両岸のひと握りのクラウド領主たちが持つ権力の規模と性質を考えたとき、この世の民主主義といえるようなものはすべて夢のまた夢になっているように思える。実際、西側諸国から見ると、皮肉な状況になっている。クラウド資本を監視し、民主主義を生かし続ける希望になり得る政治体制は中国共産党なのだ。ジャック・マーなどの中国のクラウド領主を厳しく制限し、共産党が受け入れられる範囲内にクラウド金融をとどめておく方針を明らかに打ち出したのは習近平だった」

    第七章 テクノ封建制からの脱却

    「一定の限られた範囲内だとはいえ、資本主義が少なくとも人生の主権を自分に授けてくれていると私たちが考えていた時代が過去にはあったということだ。どんなに一生懸命に働かなくてはならなかったとしても、私たちが人生の一部を垣根で守り、その垣根の中がどれだけ狭かろうが、その中では自律し、自己決定し、自由でいることは可能だった。私たちのような左派は、選択の自由を本当に持っているのは金持ちだけであり、貧乏人には失う自由しかなく、最悪の奴隷とはみずからを縛る鎖を愛するようになった人々のことだとわかっていた」

                       

    「日々少しでも自分が売り物になっていない時間を確保する権利が、今やほとんど失われているということが、社会の急進的な批判者でなくともわかるだろう。皮肉なことに、自由な個人を抹殺したのはファシストの突撃隊でもなければ、スターリンの秘密警察でもなかった。新しい形の資本が若者に最もリベラルなことをしろ、つまり自分自身であれ(そして成功しろ)と指図するようになって、自由な個人は抹殺された。クラウド資本がつくり出して金儲けの種にした行動誘導のうち、この点こそが最も多くの人に影響した最大の成果だろう」

    「テクノ封建制を前にして、自由な個人として孤軍奮闘しても歯が立ちそうにない。インターネットから離れ、スマートフォンの電源を切り、クレジットカードではなく現金を使えば、しばらくはなんとかなるかもしれないが、根本的な解決にはならない。みんなで束になってかからねば、クラウド資本を市民と社会のものにすることはできないし、クラウド資本の支配から僕たちの魂を取り戻すこもできないだろう」

    「一九七一年のブレトンウッズ体制の終焉以降、支配力が産業から金融に移るにつれて、ヨーロッパの社会民主主義もアメリカの民主党支持者も、ウォール街やロンドンのシティやフランクフルトやパリの銀行家たちとのファウスト的な取引に引き寄せられていった。その取引は粗野で単純なものだった。政権を取った社会民主主義者は銀行を規制の足枷から解放すると、『好きにしろ!自主規制で構わない』と告げたのだ。その見返りとして、野放図な金融化がもたらす莫大な利益のほんの一部のおこぼれを、福祉国家の足しにすることで手を打ったのである。社会民主主義者は現実逃避に陥り、ホメロスのたとえを使えば、現代版蓮喰い人[『オデュッセイアに登場する平和ボケした伝説上の民族』]になり下がった。金融化のおこぼれで懐を肥やしているあいだに、彼らは知的にも倫理的にも日和っていった。その甘い汁によって彼らは信念を変えて、こう思い込むようになった。かつては危険だったものがリスク不要となり、この魔法のガチョウはいつでも金の卵を産んでくれ、その卵が福祉国家を支える資金として使われるのなら、ガチョウがなにをしても正当化できる、と。そんなわけで、二○○八年に金融危機が起きたとき、彼らはは銀行家に向かって『もうたくさんだ、銀行は救ってもお前らを救う筋合いはない!』と言い切る頭脳も倫理観も持ち合わせていなかった。そして、銀行家には社会主義を、ほかのすべての人たちには緊縮財政を、という第四章で説明した最低最悪の組み合わせが経済を停滞させ、クラウド領主の台頭の資金源になった」

    「クラウド・プロレタリアート、クラウド農奴、封臣資本家、伝統的なプロレタリアートやプレカリアート、気候変動の被害者を代弁する政治家は存在せず、大衆はテクノ封建制によってクラウド封土に閉じ込められ、息ができなくなっている。社会民主主義の本来の理念と自由な個人というそもそもの考え方を復活させるには、ふたつのことが必要だ。第一に、右派と左派の従来の区別は時代遅れだという神話を捨てなければならない。地球と人間を支配し、容赦なく搾取する資本主義の帝国で生きる限り、その帝国を打倒するという左派の課題に根ざさない民主主義政治はあり得ない。第二に、民主主義政治がなにを意味するのか、どのようにすればそれを達成できるのかを、クラウド資本の上に築かれた帝国であるテクノ封建制の世界でも通用するように考え直すことが求められている。そこでは、新たに生み出された極めて複雑な階級構造と対立すが存在するのだ」

    「いい知らせと悪い知らせがある。悪い知らせのほうは、インターネットが資本主義を殺す資本を生み出し、資本主義を、はるかに悪いなにかに置き換えたということ。いい知らせは、今の僕たちの手の中には、ソ連も改革派社会民主主義者たちも持つことができなかった武器があり、それを使えば新しいコモンズを再構築できるかもしれないということだ。要するに、今の僕たちは新しい形の農奴制のもとで生きているけれど、父さんが理想とした、人生を謳歌し自由を最大化できるようなボトムアップ型のコミュニズムを実現できる、これまでにない黄金のチャンスを手にしているということだ」

    となりました。長くてすいません。

    以下雑感を(読んでも読まないでもいいです)。

    これを読む前に「アルゴリズム・AIを疑う 誰がブラックボックスをつくるのか」という類書を読みまして、ここで買ったものから、AIが同じ書を買った人が他に何を買ったか推測し、レコメンド(お勧め)にしている、という内容でしたが、ここでも似た様なことが書いてありまして、全てAIのアルゴリズムに支配されている、という内容でした。

    ここの事もクラウド封土、ここで買ったり、ここでレビューを書くのをクラウド農奴、と厳しく批判されております。

    しかし、この書を知ったのはここだし、買ったのもここなので、著者の方もそれは織り込み済みの事として納得されているかと思います。

    レイジ・アゲインスト・マシーンという社会批判の多いバンドに、インタビューで、巨大資本のレコード会社を批判しながら、巨大なメジャー会社と契約していのは、矛盾していないか聞かれて、メンバーの方はマルクスが自分の著作が資本圏で売れたらうれしいはずだ、と答えておりましたが、著者の方もクラウド封土でこの本が売れたり、クラウド農奴が読んで内容を理解してくれたら、それはそれで嬉しいかもとも思いました。

    ただ、ここでレビューを書く事で、AIのレコメンドに利用されたり、ここの収益を上げるのに片棒を担いでいるのも否めない真実なので、複雑ではありますが。

    今はもう、そういう時代なので、スマホへの批判や使うのを減らす提言の書もありますが、これだけ普及すると現実的ではない、という批判の書も読みまして、それぞれ言っている事が正答みたいで、なんともいいずらい感じもしました。

    なので、ガーファの思惑を知りつつ、利用されながら、こちらでも利用してしまおう、とダブルスタンダード或いは面従腹背で使う様に心がけようとか思います。

    あたらしい封建制度の中で、いかに巧みに生きていくのかを探った書。必読。

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    欲望という名の暴君

    2025年12月23日に日本でレビュー済み
    フォーマット: 単行本

    GAFAが台頭した背景について、経済学的な背景を教えてくれる。資本主義も、共産主義も、テクノ封建制も、社会の中の誰かを押しつぶつことに変わりはない。抑圧的でない経済体制は可能なのだろうか。しかし、「第七章 テクノ封建制からの脱却」で述べられている著者の解決モデルには現実味を感じなかった。実現が難しいから、というより、人間が抱く「欲望」に対する見方が楽観的すぎて、たとえその解決モデルが実現したとしても、著者が想像するような理想的な状態にはならなさそうに思える。

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    満足

    2025年7月20日に日本でレビュー済み
    フォーマット: 単行本

    満足してます。

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    結論より、プロセスの説明が素晴らしい

    2025年4月22日に日本でレビュー済み
    フォーマット: 単行本

    "資本主義という言葉を捨てて『テクノ封建制』という言葉に置き換える必要があるのはなぜなのか?(中略)とても単純にこう説明できる『レントが利潤を凌駕した』と。"2025年発刊の本書は元ギリシャ財務大臣が資本主義の次のフェーズ、テクノ封建制の実相を明らかにしている良書。⁣

    個人的には著者のベストセラー『父が娘に語る〜』がとても面白かったので、本書も手に取りました。⁣

    さて、そんな本書はサブプライム住宅ローン危機による世界危機を的中させ、2015年のギリシャ経済危機の際には財務大臣をつとめ、現在はアテネ大学で経済学教授をつとめる著者が『利潤』が社会経済の原動力になった資本主義がすでに終焉を迎え、今は利潤ではなくレントで動かされる時代へ。つまり、グーグルやアップルなどの巨大テック企業がデジタル空間の『クラウド領主』となり、タダで働いてくれるサードパーティ開発者が生み出す売り上げから一定割合をピンハネ、ユーザーからは『クラウド農奴』として個人情報を搾取し、富を積み上げる時代になっている事を世界金融危機、コロナ禍における中央銀行の金融緩和、ロシアによるウクライナ侵略戦争による金融制裁などの世界情勢と結びつけながら解説してくれているわけですが。⁣

    SNSやWEBの大手プラットフォーム企業が私たちから様々な情報を抜き出し、利用し、アレクサ他のAIツールを使って企業側に都合よく【私たちの趣味思考、購買意欲を再編集してくる時代】になっている事自体は割と認識していましたが。それを『資本主義の終了、封建制への逆戻り(バージョンアップ)』といった視点で論じているのは新鮮でした。⁣

    また、金融業界の末端にも関わる1人として、アメリカでも中国でもなく【ギリシャの財政専門家の視点で語られる】世界経済の変化、アダムスミス、マルクス、そして現在といった歴史的、俯瞰的な視点は(わが国への評価も含めて)とてもわかりやすく、説得力があって勉強になりました。⁣

    しかし、現在における『自由な個人』を抹殺したのが、ファシストの突撃隊や秘密警察でもなく、クラウド資本がつくり出した金儲けとしての『行動誘導』ですか。なんとも皮肉ですが、共感しきり。⁣

    巨大テック企業が支配する現在を考えたい方、また世界経済の変化を財政面から捉えたい方にオススメ。

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    読みやすく、現代社会を理解するために得ることの多い、画期的な書物

    2025年7月18日に日本でレビュー済み
    フォーマット: 単行本

    現代の経済を学ぶ上での必読の本だと思います。

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    斬新な切り口

    2025年6月1日に日本でレビュー済み
    フォーマット: 単行本

    読みやすい

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    日本は、テクノ封建制の時代をどう生きるべきか?

    2025年5月30日に日本でレビュー済み
    フォーマット: Kindle版 (電子書籍)

    資本主義の次に来るもの──それは「テクノ封建制」だ、と著者バルファキスは説きます。

    つまり、商品を生産して利潤を得る資本主義の論理ではなく、「場を支配し、利用料や手数料で儲ける」構造。GoogleやAmazonといった巨大テック企業はクラウド上の領主となり、私たちユーザーは日々、労働やデータを差し出している“クラウド農奴”なのだと。

    この本では、その構造の深層がかなり掘り下げられています。印象的だったのは、「クラウド動員」という概念。一人ひとりの小さな行動(Amazonでの買い控えなど)が、束になれば大きな影響をもたらす。クラウド時代の新しい集団行動の形としての希望が描かれていました。

    一方で、日本はどうすべきなのか?という問いには明確な答えは提示されません。とはいえ、米中のテック覇権に挟まれた中で、せめて“もうひとつの軸”をつくる可能性を模索すべきではないか──そんな思いが残りました。

    本書は、デジタル経済と民主主義、グローバル資本の行方に関心のある方にとって、強く刺さる一冊だと思います。

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    ただ耕すだけ

    2025年8月31日に日本でレビュー済み
    フォーマット: 単行本

    巨大プラットフォーマーは領主様だったか。

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